目の前の猿渡健一郎は、私の言葉を聞いて一瞬首を傾げたが。
すぐに、口角を上げる。
「そういえば、どっかで見たことある子だなぁ~って思ったら、まさかのね。茉白ちゃん、ヤクザ──」
「薬剤師の娘なの!!」
嫌な言葉が聞こえてくれば、慌ててまた大きな声を出して声をかき消す。
目を合わせて、“その言葉は言わないで”と必死に訴えるが、面白がっているのかやめてくれない。
「茉白ちゃんはヤクザ──」
「薬剤師になりたいの!!わたしも、お母さんと同じように!!」
「やっぱヤクザ──」
「薬剤師目指して頑張る!!」
「ヤ──」
「猿渡くんっ!!ちょっと話いい!?」
このままでは、わたしがヤクザの娘だと教室内で公言されてしまう。
そう思ったわたしは、ガタッと席を立って猿渡健一郎の腕を強くつかんだ。
「いいよ、茉白ちゃん」
なんだか楽しそうに彼は答えて、腕を強く引いて教室を出た。