「ねぇねぇ、名前なんていうの?」
わたしの席は、教室の真ん中の列の1番後ろ。
その席のすぐ隣で立ち止まり、声が聞こえてくる。
こ、これは……明らかにわたしに聞いてる、よね!?
なんで聞くの!?隣の席だから!?
答えたくないけど、答えないと感じ悪いよね!?
心臓がドクドクと音を立てて動く。
「……た、鷹樹、茉白、です」
ちらりと声のしたほうへと目を向けるが、緊張しすぎて目を合わせることができなくて。
少し視線を下に落として答えた。
「…………」
なにを言われるのかと思えば、彼は無言。
うーん、となにかを考えている様子。
今度はなに!?
……なにか、嫌な予感しかしない。
「あぁ、思い出した」
数秒後、やっと口を開いたかと思えばわたしを指さす。
そして。
「ヤクザ──」
「薬剤師!!!!」
嫌な単語が聞こえてくるから、慌てて大きな声を出して、男の声をかき消した。
「お母さんが薬剤師なの!!さ、猿渡くん、確かお母さんと知り合いなんだよね!!わたし、お母さんから少し話聞いてて!!」
大きな声で、必死になって言った。
もちろんこれはヤクザのことをバラされたくないから言った嘘。