そしてこれ以上目立たないうちに、この場から退散。
碧の腕を引っ張って足早に歩いた。


もう、なんなんだあの人は……。
髪を染めるのは校則で禁止されてるのにあんな派手髪だし、見ず知らずのわたしにあんなことをいきなりするし……。
あの人のせいで、変に目立っちゃうし!


最悪すぎる。
せっかく、平穏な高校生活が送れると思ったところなのに。

どうか、変な噂をされませんように……。


ひたすら祈りながら、屋上へと到着。


「お嬢」


パタン、と扉が閉まると碧に呼ばれて、なにかと思えば。
彼はわたしの左の頬を自分の学ランの袖で拭いた。

左頬は、さっきあの人にキスされたところ。


今思えば、だれかからキスをされたのはさっきのがはじめて。
口はもちろん、ほかのところにもされたことが人生で一度もなかったのに。


はじめてが見ず知らずの人って……。
頬だけどさ、頬でもやっぱりいやなものはいやだ。
しばらくは思い出してしまいそう。


「……忘れなきゃ、今すぐ忘れなきゃ」


頬にはまだわずかに感触が残っていて、ぶんぶん横に顔を振って忘れようと頑張る。
それを聞いた碧は──急に、顔を近づけてきた。





そして、左頬に触れたのは柔らかい感触。