「……言う気になった?」


 そう思ったとき。
 唇を離した松尾が色気を含む声のトーンでそう言った。


「まだ言わないなら、
 このまま続けるよ」


 少しだけイジワルな色を含んだ松尾の瞳。

 だけど。
 その中にも。
 やさしさが見える。


 ……ずるい。
 ずるいよ、松尾。

 そんな言い方。
 そんな表情……。

 こんなことをされたら。
 ……言わないわけにはいかない……じゃない。

 自分の気持ち。

 そうじゃないと思っていた。
 だけど。
 本当はそうじゃないわけではなくて。

 心の奥底に眠っていた。
 自分の本当の気持ち。

 それを本人に伝えること。
 そのことが。
 すごく、ものすごく恥ずかしい。

 だけど。
 心のどこかでは。
 伝えたいという気持ちがあるのも確かで。

 そうじゃないと。
 後悔してしまうから。
 あのときのように。

 高校三年生のあの日。
 松尾から想いを打ち明けられたのに。
 自分の本当の気持ちを打ち明けることができなかった。

 そのことを。
 ずっと。
 ずっとずっと後悔していた。


 今回も同じことをしてしまったら。
 また同じことで苦しむことになる。

 私自身もそうだけど。
 それよりもなによりも。
 松尾のことを傷付けてしまうということ。


 もう傷付けたくない。
 松尾のこと。

 そして……。
 私も……。
 傷付きたくない。


 だから……。