そうして三十分経ち。

 何も変化がない。


 そろそろ。
 帰ろうかな。


「あの、松尾。
 私、そろそろ帰らなければ……きゃっ」


 そう言いかけたとき。
 突然、大きな雷鳴が響き渡った。

 そのあとを追うように大粒の雨が叩きつけるように降り出した。


「通り雨だろう。
 すぐに止むよ。
 ここに居れば安全だし」


 せっかく勇気を出して言いかけたのに。

 そんなとき降ってきた雨。


 逃したな。
 タイミング。


 というか。
 松尾、聞こえていなかった?
 今、私が言いかけたこと。



 十分ほど経って。
 松尾の言った通り。
 雨は止んだ。


 じゃあ、今度こそ本当に。


「そろそろ帰らなくちゃ。
 雨も止んだし。
 紅茶とお菓子、本当に美味しかった、ありがとう。
 渡してくれるものは、また別の機会に」


 そう言ってソファーから立ち上がろうと……。


 ……⁉

 まっ……松尾⁉


 それは一瞬だった。
 松尾に手を掴まれ。
 そのまま引き寄せられ……。
 松尾の腕の中に包まれた。


「……帰らないで……」


 え……。


「そばにいて」


 え……⁉


「まっ……松尾……?」


「……噓……なんだ」


 ……?


「……噓……?」


 何のこと……?