私、まだ亜南くんに返事をしていないのに。

 ダメだよね。
 いくら亜南くんがこうしたいと言ったからといって。

 いつまでも。
 このままでは。


 だけど。
 わからない。
 亜南くんにどう言えばいいのか。

『離れてもいい?』
 そんなストレートに言えるわけがない。

 亜南くんから離れるための言葉を考えているけれど。
 決して亜南くんから離れたいわけではない。

 ただ。
 亜南くんに返事を待ってもらっているのに。
 こんな中途半端な態度をとっていてはいけない、と思って。


 どうしよう。
 亜南くんに何て言えば……。



 ……‼


 そう思っていると。
 亜南くんがやさしく私から離れた。


「ありがとうございます」


 そう言ったときの亜南くんの表情は。
 少しだけ照れくさそうだった。


 そんな亜南くんのことを見て。
 私も照れくさくなった。


 そんな自分がいる。


 どう思っているのだろう。
 私は。
 亜南くんのことを。


 わからない。
 自分の気持ちが。



 亜南くんは年齢が一回りも下。

 正直なところ。
 そんな相手との恋愛はかなり躊躇している。


 はずなのに。
 亜南くんに抱きしめられて。
 ドキドキしている自分がいた。

 頭では躊躇しているのに。
 心は……。
 それから身体も。
 それに反していた。


 もう。
 何が何だかわからなくなっている。



 落ち着いて、私。
 焦らず冷静に。

 今は。
 亜南くんに抱きしめられたばかりで心も身体も(ほて)っている。

 だから。
 それを冷ましてから、また考えよう。



 そう思いながら再び亜南くんと歩き出した。