だけど。
 やっぱり気のせいだろう。

 その店員さんは初めて見る顔。
 だから店員さんも俺のことは初めて見るはず。


 そう思いながら飲み物を注文した。


「あっ、すみません」


 注文を終えた後。
 すぐにその店員さんに声をかけた。


「遥稀……店長さんはいらっしゃいますか」


 店内を見渡した。
 けれど遥稀の姿が見当たらなかった。
 なので訊ねてみることにした。


「今日はもう上がりました」


 そうだったんだ。

 ……なんか……。
 寂しい……。


 会えると思った。
 遥稀に。

 そう思ったのに。
 会うことができない。

 そう思うと。
 ますます募った。
 寂しさが。


 仕方がない。
 また来るか。

 そう気持ちを切り替えて。
 飲み物を飲む。



 しばらく、くつろぎ。
 店を出ようと会計を済ませる。


 外に出た瞬間。
 初夏の香りを含んだ風がやさしく吹いた。

 その風に包まれながら、ゆっくりと歩き出す。


「お客様」


 そのとき。
 後ろから声が聞こえた。