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「明日、朝早いし、
 続き気になるけど、ここまでにしておこう」


 寝る前の癒し。
 それは、お気に入りのマンガや小説を読むこと。

 今は。
 今日、松尾から借りたマンガを読んでいた。

 続きは栞を挟んで、また明日。


 部屋のあかりを消し。
 ベッドに横になった。


 仰向けになり。
 窓から入ってくる月明かりをぼーっと眺めている。


 そのとき。
 思い出していた。

 今日、本屋で松尾とばったり会ったときのことを。

 松尾と本屋を出てから。
『これから時間ある?
 よかったら一緒に夕飯食いに行かない?』
 松尾がそう言った。

 本屋に寄った後は特に予定はなかった。
 だから『うん』と返事をした。

 本屋から少し歩いたところに素敵な店があった。

 私と松尾はその店に入り、夕飯を一緒に食べた。

 それから会話もほどほどにした。
 会話は松尾からの方が多かった。

 私は松尾の会話に頷くことが多かった。
 だけど、こうして松尾と普通に接することができている。
 それは私にとって大きな進歩。

 そのことに嬉しさを感じながら松尾との夕飯の時間を過ごした。



 そういえば。
 少しでも早くマンガ、松尾に返さなければ。
 松尾も早く読みたいと思うし。
 いつまでも持っていたら悪い。

 読み終わったら松尾にすぐ連絡を……。

 って。

 連絡……。
 松尾に……。

 そうしてから返すということは……。

 直接会う。
 ということ。
 松尾に。

 もう一度、会う。
 ……会える……。

 なぜだろう。
 松尾と会うことを頭に浮かべたら……。
 表情が緩んで……。

 もしかして……。
 喜んでいる……?

 松尾に会えることが。
 私にとっては。

 こんなにも。
 嬉しいなんて……。

 なぜ。
 そう思うのか。

 ……私……。
 まだ……。
 松尾のことを……?

 わからない。
 自分の気持ち。

 本当の。
 私の気持ち。

 だけど。
 本当の気持ちがわかったところで。
 何かが起こるわけでもない。

 やめよう。
 こんなことを考えるのは。


 そう気持ちを切り替え、眠ることに集中した。