「だから」


 えっ⁉


 松尾は私に買ったばかりの本を渡そうとした。


「そっ……そんなっ、
 いいよ、悪いから」


『本を貸す』
 松尾の言葉に驚いた。
 それもあるけれど。

 松尾が先に買ったものを。
 私が先に読む。

 そんなことはできない。
 そう思ったから。


「別に悪くないよ」


 だけど松尾は。

 なんてことなさそうに。
 より本を渡す距離が縮まって。


「だっ……だけど、
 松尾がせっかく買ったんだから」


 そう言ったのだけど。


「そんなこと関係ないよ。
 たまたま先に買うことができただけで」


 気遣いのある松尾はそう言ってくれた。


「それに」


 ……?

 それに?


「嬉しい」


 嬉しい?


「遥稀もこのマンガ読んでたんだなって。
 遥稀と共通するものがある。
 そのことが、すごく嬉しくて」


 嬉しい、の?
 私と共通するものがあって。

 松尾にとって。
 そのことが……?


「だから。
 読んでほしい、遥稀に」


 松尾……。


「読んだら返してくれればいいから」


 松尾はやさしく私の手を取り。
 そっと本を渡してくれた。


「……ありがとう」


 こんなにも親切にしてくれている。

 だから。
 いいのかな。
 素直になっても。


「読み終わったら連絡するね」


「急がず無理しないでいいから」


 優しい。
 松尾は本当に優しい。

 今も。
 昔も……。