服装は何とか整えられたので、つぎは最期の晩餐がほしい。

「どうせならトーバー港の名物をいただけないかしら。お魚や貝をたっぷりいれたトマト風味の潮汁が有名でしたわね。船のうえでお鍋のサーブはありまして?」
「あるわけないだろ。死ぬ直前に食い物の心配するなんて、ご令嬢ってのは変だね」
「どんなときも楽しみは大切でしてよ。わたくしは今、生まれてから一度も味わったことのない、何にも価値のない自分を味わっておりますの。田舎暮らしの妄想をするときのように!」

 四歳で王太子妃候補になる以前から、キャロルはシザーリオ公爵家の令嬢だった。
 十二夜に失敗して、もう死ぬしか価値のない人間になったのは悲しい。
 けれど、異様に体が軽い。

 生まれつき得た地位というのは、金ピカの足枷だったのである。

(レオン様は、もっと重たい足枷を嵌めておられますわ)