ニナは、キャロルの腕を引いて架け橋まで走り、船員に金貨を握らせて順番より早く船に上がらせてもらった。

 堂々と架け橋を登っていくキャロルは注目の的だった。先に上がったニナは、ピリピリしながら船尾近くに移動して、キャロルの頬を強くはたいた。

「ふざけてんじゃないよ! 注目を浴びて助けてもらおうとでも考えてんのかい!!」
「いいえ。助けは来ないと分かっておりますもの」

 頬を押さえたキャロルは、ニナの瞳をまっすぐに見すえた。
 痛みを感じても取り乱さないのは、王太子妃になるための立ち居振る舞いを訓練してきた賜物だ。

「もうすぐ殺されるからと言って、身だしなみも整えずに泣きわめくのは愚かなこと。わたくしは、わたくしなりに最期のときを迎えるつもりです。貴族令嬢らしい装いができて満足ですわ」

 両手を広げて、手すりに寄りかかる。
 青い空と清らかな空気。ビバ自然、ビバ自由、ビバ生命だ。