「王妃殿下から城へ招かれているニナ様は、出ていく際も正門から堂々と出ていけるはずです。それなのに、どうして商人に変装を?」
「ウーーーー、ワンワン!」

 パトリックは、キャロルの斜め後ろに立って、ニナに吠えた。顔つきは険しく、威嚇するように牙を覗かせている。
 以前もこんなことがあった。
 たしかあのときは、安っぽいホテルに向けてだったが……。

「失礼」

 キャロルは、バスケットを覆う厚手の布をめくった。すると中には、乳白色の宝石をつかった美しいジュエリーが、たくさん詰め込まれていた。

 これらは、キャロルの指輪と同じ、ヴァイオラの置き土産。
 宝物庫から盗み出されたものだ。