視界を塞ぐ綺春くんのジャケット。後頭部と背中に回った手でとんとん……とやさしくたたく。
耳元で「大丈夫だから」と何度も紡がれる。
綺春くんの声はやわらかくて、やさしくて、とっても心地よい。
「おれがいるから」
「……、うん」
高いところへの恐怖が綺春くんへのドキドキと混ざり合って、緩和されて、だんだん気持ちは落ち着いてきた。
数分前まで観覧車が揺れるたびに肩を震わせていたけれど、綺春くんに抱きしめられているおかげか、もう大丈夫な気がしてくる。
「……綺春くん」
「うん」
「ありがとう……」
「どういたしまして」
綺春くんの好きなところ。
「好き」に対しては「うん」「わかった」ばっかりだけど、お礼を言うと、ぜったい「どういたしまして」って返してくれるんだ。
些細なことかもしれないけど、わたしは綺春くんのそういうところが好きでたまらないの。