あそこに行くには、どうしてもエレベーターに乗らないといけない。
あの中で、黙ってる訳にはいかないよな‥。
そうか。答え合わせを始めよう。
『さぎりはさ、夢って好き?夢から覚めるの、夢ね。』
「うーん、あんまり好きじゃないかも。覚めたら切ないからね」
え?ってことは、やっぱり今日を夢だと‥?
わからないけど、俺の答えを言うね。もうすぐ着くから、そしたら言う。
『だよね。俺もそう。今日は夢みたいに楽しかったな』
ちょうどよくエレベーターが着いた。
そのまま外に出る。
『着いたよ。』
「え?」
『ここ。もうすぐ夕陽が見られる。結構綺麗なんだよ。』
俺が君に思いを伝えるなら、やっぱりここしかない。
夕陽が沈んでいく。
沈み切る前に言わなきゃ。
『さぎり』
「ん?」
『今日は、夢か?』
ごめん、意味わからないかな‥。
「どういう意味?」
やっぱりか。
『んー、また誘ってもいいかってこと』
これだけだと益々意味がわからないよな。
「うん、いいよ。」
え?逆に聞きたくなった。いいのか‥?
『あの』「ねえ」
同時。あれ?このパターンは?
『君の名は!』「君の名は!」
爆笑。揃った。幸せだった。君の笑顔が見られたから。よし。ストレートに言おう。例え今日が夢になってしまったとしても、今の笑顔、忘れないから。それだけで、幸せだと思える。
息を整え、静かに決意する。
『ねえ』
「ん?」
『俺は、今日を夢にしたくない』
「え、うん、だから、また誘ってくれるんでしょ?」
そう。でもそうじゃない。
『うん。でもそうじゃなくて』
「どういうこと‥?」
言わなきゃ。怖いし、恥ずかしいし、自信ないけど、せめて本気なんだってことは伝わるように。真っ直ぐに。ただ真っ直ぐに。
『こういう日を日常にしたいんだ。つまり‥』
もう一息。なんだろう。魂が震えるみたいだ。
悲しくもないのに涙が溢れてくる。
『さぎりが好きだ。ずっと一緒にいてほしい。』
言えた。真っ直ぐに言えた。後悔はない。後は、君の答えを待つだけ。
「それ‥本当‥?いつもみたいに嘘だよなんて‥」
君が、途中で言葉を切る。俺もなにも言わない。今は、ただ真っ直ぐ見つめている方が、伝わる気がしたから。君が少し下を見る。でも俺は真っ直ぐに君を見る。
少し沈黙。その間も、俺はさっきの魂が震える感覚のままだ。溢れた涙は、もう隠せない。それでも見つめている。
不意に、君が目を上げる。
「私も‥」
かすれた声でささやく。
『ん?』
もう一度言いやすいようになるべく優しく聞き返す。いいんだよ。私は好きじゃないって言っても。ちゃんと受け止めるから。
「私も好きです。君が」
‥え?今なんて‥?本当に?
『本当か‥?』
一気に顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「私は君みたいに嘘だよーなんて言いませんー!!」
いつも、ごめんよ。これからは言わないよ。もう恥ずかしがったりしない。
『そうか‥よかった。』
安心したら本当に涙が出てきた。今までの不安とか、寂しかったことを思い出した。
『たまに電話したり、出掛けたりしてたけど、本当は不安だった。俺みたいな相手が他にといるかもって』
君も‥そう思ってたかな?
『もっと早くに言いたかったけど、怖かった。今日のデートも、ちょっと強引に決めちゃったし。あの強引さは‥ちょっとした照れ隠しだ。』
正直に言ってみた。君なら受け入れてくれるきがしたから。
『言えてよかった。メリーゴーランドに乗るとき、寂しそうな顔してたから、守りたいと思った。告白を決めたのは、実はあの時だ。』
昨日までは不安しかなかったからな。
『彼氏ができる前に、言えてよかった。好きだ』
俺の眼の前に立ち、真っ直ぐに俺を見上げる君が、とても頼もしく見えた。俺はこう見えて臆病で気弱なやつだけど、君になら、そういう面も見せていいんだと思えた。ただ見つめ合っているだけで、すごく安らいでいた。
涙を流す俺を、君がそっと抱きしめてくれた。俺もそれに答えるように、背中に腕を回して、抱きしめた。
腕に伝わる感触は、確かなものだ。
『夢じゃない』
確かめるように口に出した。
「うん。夢じゃない」
君の優しい声。改めて好きだと思う。
「好きな人の名は?」
『‥さぎり』
もう、恥ずかしくない。
「大好きよ」
怖くもない。
『俺もだ。心から、今日誘ってよかったと思ってる。』
本当は君が誘ってくれたんだけどね。
「誘ったのは私」
バレてたか。