「大事に決まってんだろ。お前のことも大事だよ」

「それは家族としてでしょ?そうじゃない。そうじゃないんだよ、恭くん」


なず菜さんはきっと堂くんを睨みつけた。

涙の膜が張ったその目は、すこし動いただけで雫がこぼれ落ちてしまいそうで。

ふるふると長い睫毛が、力が入ったように震えていた。


堂くんが長い息を吐いた。

伏せられた睫毛はなず菜さんと同じくらい長くて。



もう一度視線をあげたとき、そこには強い意志があるように感じた。




「なず菜。俺はお前を選ばない」

「……一生?」

「一生」

「なんで」



家族だから、妹だから。

なず菜さんが求めているのは、そんな答えじゃない。


わたしの目には、なず菜さんがこう訴えているように見えた。


はっきり言って、と。





「他に、好きなやつがいるから」




なず菜さんの目から涙がこぼれ落ちた。

それはいままでずっと我慢してきたかのような。


綺麗で、透き通っていて。

それでいて、どこか吹っ切れたような雫でもあった。



顔をおおってしまったなず菜さんの表情は見えない。


それでも声だけは、ぴしゃりと耳に届いた。




「……お風呂。恭くんが入るときは冷水にしてやる」


「じゃあお前んときは熱湯にしてやるよ」