「あたしがいちばん恭くんのこと理解してあげてたのに。近くにいてあげたのに……なんで?」
「さっきからしてあげる、いてあげるって……そういうことじゃねーだろ」
座りこんでしまった彼女さんを見おろす堂くんの視線には、厳しさなんて含まれてない。
その瞬間、わたしは気づいてしまった。
ただそこにあった関係に、ようやく気づいた。
……なんでいままで、そうだと思わなかったんだろう。
「なあ、なず菜。俺たちは家族だろ」
堂くんの言葉がしずかに、だけどはっきりとわたしの耳に届いた。
彼女さん──なず菜さんの耳にも、もちろん届いているだろう。
「それ以上にも以下にもならない。それはずっと前から言ってる。何度も、何度も」
「なずと安藤さん、どっちが大事なの。恭くんはなずのことが大事じゃないの?」
堂くんの言葉が聞こえていないかのように。
顔をあげたなず菜さんは、とても切なそうに顔を歪めていた。
わたしまで胸が痛くなってしまうほど、切なく、苦しげに。
きっと、ずっと想ってきたんだろう。
それが痛いほどに伝わってくるなず菜さんの心の叫びに、わたしはぐっと胸をつかれたような気持ちになる。
わたしが衝かれたって、なず菜さんにとって意味がないのに。