「恭くん!!」
案の定、後ろから追いかけるように聞こえてきた声。
わたしは足を止めかけた。
だけど立ち止まれなかったのは、堂くんがそのまま進むから。
「ま、って……待って、堂くん……!」
ああ、ひさしぶりに名前呼んだなって。
場違いなことを考えてしまう。
「待って、堂くん。あの子……彼女、呼んでる」
ふりしぼった声は思った以上にか弱くて。
痛々しいその声に、やっと堂くんが足を止めてくれた。
「ねえ、恭くん。はやく帰ろ?ね?」
彼女の甘えるような、すこしうわずった声が。
わたしたちのすぐ後ろで聞こえた。
堂くんは足を止めたまま振り返らない。
この状況をどう説明したらいいかわからなかったけど、とにかく自分だけでも振り返ろうとしたときだった。
堂くんがくるりとこちらを向いた。そしてわたしの腰を抱き寄せる。
えっと思う間もなく、わたしの唇は塞がれていた。
ちょうど、彼女さんに見せつけるような角度で。
どこかできゃあ、と悲鳴とも歓声ともつかない声があがった。