「っ……!」
一瞬、頭が白くなって。
すぐに、あわてて視線を外した。
視線の糸を振り払うように、絡み合ってしまう前に。
びゅう、と一陣の風が吹いてわたしの顔を撫でていく。
「っ、くしゅ」
思わず目を閉じてくしゃみをしながらも、内心わたしはドキドキしていた。
一瞬だけど目があってしまった。
彼女に申し訳なくなって、頭を何度も振るう。
堂くんを消そうとしていたわたしに、棗くんがはっと白い息をもらした。
「やっぱ好きなんだねぇ」
「っ、見てた?」
「一部始終をしっかりとね」
「……ほんとは、忘れなきゃいけないんだけど」
どう返したらいいのかわからなくて、わたしは曖昧に笑ってみせる。
自分だけ前に進めないことが、とても後ろめたかった。
ふとした瞬間に思い浮かべてしまう。
笑っている顔を、眠っている顔を、わたしを見つめている顔を。