「なずが恭くんをあたためてあげるから」
俺が身を離すよりも早く、なず菜がくっついてきた。
「これからずっと一緒にいよう」
「……なず菜、お前」
「学校。終わったら迎えに行くから、一緒に帰ろうよ」
すがるように抱きつかれ、顔を見あげられる。
眩しいほどのネオンに照らされて。
なにも答えないでいると悲しそうに顔を歪められた。
「恭くんはなずのことが嫌い?」
「そんなわけねーだろ」
「だったら」
切に願うように、顔をうずめられる。
「安藤さんじゃなくてなずを見て。恭くん」
その言葉を聞いた瞬間、なにもかもが自暴自棄になりそうだった。
なず菜の体温がじんわりと身体の中に染みこんでくる。
あたたかかった。
『期待するだけムダ。求めるから苦しくなるんだよ、兄貴』
いつだったか、街ですれ違った遼花とした会話がよみがえった。
ひとりで歩いていた遼花はまるで野良猫のような目をしていた。
期待するだけムダ。
求めるから苦しくなる。
遼花の言っていることはどちらも正しいのか。
明日からまた一緒に暮らそう。家族みんなで、一緒に。
俺、もう期待するのやーめた。
わたしはふたりを離したりしないから。
「好きだよ、恭くん。なずがずっと一緒にいてあげるから」
幸せになってね────堂くん。