家で過ごす時間はなにかとしんどかった。相手が、そうならないようにと栞さんが気を遣っている分、余計に。


学校でもろくに授業に出ず、図書室でサボってばかりいた。まだ栞さんに連絡がいっていないのは、テストでそれなりの成績を収めているからだと思う。


極力、ギリギリまで学校に残るようにしていた。が、あまり遅くなりすぎたら栞さんを心配させてしまう。そこが難しかった。





「おかえり、恭花」

「……ただいま」


玄関をあけると栞さんがリビングから顔を出した。

会ったときと変わらない容姿は、もうすぐ四十代後半になるとは思えない。



「遼花……は、今日も帰らないのかな」


ぽつりと、悲しそうに栞さんが呟いたと同時。
2階からドアの開く音がした。


俺は荷物を玄関に下ろして、もう一度ドアに手をかけた。



「どこにいくの?」

「探してくる。遼花」

「でもっ、もう遅いし……それに、夕飯だって」

「先にふたりで食ってて」



どうせ今日も見つからないんだろう。見つかったとしても、いつもなんだかんだで逃げられてしまう。



あの日から遼花は人が変わったようになった。

家に寄りつかなくなって、あの男のことも話さなくなった。


それが……俺とはまた別に、遼花が17年の人生から学んだものだったんだろう。