「そうじゃなくて、なんで帰んねーの」

「だって堂くんまだ帰らないんでしょ?」


わたしは前回まで読んだところを思い出しながら、本のページをめくっていく。

後ろからめくるほうが早かった。



「堂くんがいるなら、わたしもここに一緒にいる」

「……なんでそこまでするんだよ」


なんで、……か。

すこし迷って、わたしは口をひらく。


「前にね?用事で遅く、図書室に来たときあるの」


そのときはさすがに堂くんもいなかった。

だけどちょうど、このぐらいの時間帯。


ぽつんと作業をしながら、ふと思ったんだ。



「ここ、ひとりでいるの、すごく寒いよ」


話し相手もいない、寒さを分かち合ってくれる人もいない。


まだ白い息も現れないひとりぼっちの空間は、すごく寒くて、寂しかった。


だからね、と文章を目で追いながら続ける。



「わたしがいるときは、遠慮なく使ってくれていいんだよ」


そのためのカイロなんだから、と。


自分で言ってて悲しくなるから、後半は声がすこし小さくなってしまった。