「まだ帰んないの?」
「んー」
どちらとも取れない曖昧な返事。
前からうすうす思ってたけど、堂くんはあまり家に帰りたがらない。
ご両親と仲が悪いのか、それとも……遼花くんのことが関係しているのか。
この前見た、なんだか不穏な雰囲気のふたりを思い出す。
『知らないなら、教えてあげようか。
堂恭花の秘密を、ね──?』
それから、遼花くんとふたりで話したときのこと。
わたしは頭をふって、考えていたことをぜんぶ取り払う。
堂くんの手をすっと解いて、テーブルの上に鍵を置いた。
くるりと背を向けて、
出口────ではなく。
書架のほうへと歩いていった。
一冊の本を手に取ってテーブル席へと戻る。
すると堂くんが虚を衝かれたように、ぽつりと零した。
「なんで」
「え、宮沢賢治が好きだから……」
てっきり選んだ本にダメ出しされたのかと思い。
『銀河鉄道の夜』と書かれた表紙を、向かい側の堂くんに見せる。