俊介が帰ってきたのは夜六時半頃だった。

 玄関の方から音がして、綾芽は慌ててベッドから体を起こした。俊介は両手にスーパーの買い物袋を持って、綾芽のいるベッドルームを覗き込んだ。綾芽を見て、俊介は嬉しそうに笑った。

「ただいま、綾芽さん。具合はどうだ?」

「あんまり……」

 あれから浅い眠りを何度か繰り返したが、すぐに起きてしまってなかなか落ち着いて眠れなかった。外はすでに真っ暗だが、街の光があるおかげか、空が明るく見えた。

 閉め忘れていたカーテンを俊介が閉めていく。綾芽はなんだかまた頭が痛くなった。

「夕飯、食べれそうだったらいろいろ作るけど、どうする?」

「い、いえ……夕飯は私が作ります」

「綾芽さんはしんどいんだから無理しなくていい。夕飯は俺が作るからゆっくり休んでいてくれ」

「すみません……」

「寒くないか? 一応暖房はつけてるけど、寒かったらもう少し温度を上げて────」

 なぜだろうか。以前は俊介といて心地良かったのに、今はなんだか居心地が悪い。何もできないことが心苦しいからだろうか。早く動かないと────そう思うのに、体はどんどん鉛のように重たくなっていった。

「綾芽さん?」

「……ごめんなさい。私の食事はいらないので、気にしないでください」

 昼間は少し持ち直したと思ったのに、また頭が痛い。なんだか体がだるくて起き上がれそうにない。本当に自分はいったいどうしたのだろうか。

 綾芽が横になると、心配したのか俊介が綾芽の横に座って顔を覗き込んだ。

「大丈夫か……? まだ具合が悪いなら、病院に行った方がいいんじゃないか」

「……いえ、大丈夫です」

「そうか……色々あったから疲れてるんだ。ゆっくり休んでいればじきによくなるよ。遠慮する気持ちはわかるけど、俺は綾芽さんに早く元気になって欲しいんだ。だから食事だけはちゃんと食べてくれ」

 ────そう、早く元気にならないと俊介さんに迷惑をかけてしまう。

 いくら恋人だからといってなんでもしていいわけではない。俊介は毎日働いているのに、自分だけこんなふうにのうのうと暮らしていいわけがないのだ。

 早く元気にならなければ。早く動けるようにならなければ。そう思えば思うほど、頭痛は酷くなった。