ドーーーン!ドーーーン!
立て続けに大きな爆発音が2回、3回、、、。
亮輔達はまだ生きている。
その音は街を破壊する音ではない。
レーザーが街に落ちたわけではない。
亮輔達が目を覆っていた腕をゆっくり開け、
つい今の今まで緑の光を蓄えていた母船を見上げる。
ドーーーン!ドーーーン!
尚も爆発音を上げ
至るところから炎を上げるのは女神の母船の方だった。
どこかから援軍の攻撃が!?
いや、攻撃を受けてる感じはない。
よく見ると爆発している箇所から緑の光が漏れる。
レーザーが逆流して自爆??
何にしても町が攻撃を受ける前に女神の母船の方が
次々と爆発を起こしながら街の空からはけるように
墜落していく。
「、、、。」
晒された命の危険。街の危険が去っていくのを未だ息も出来ずに見上げる2人。
もう、攻撃は終わったんだ。
街を危機から救ったんだ。
女神の母船が確実に墜落していくのを確認する。
脅威が去ったんだ、、、
そう思った瞬間。
2人は腰が砕けたかのようにすぐ脇の芝生の土手にヘタりこんだ。
「、、、。」
さっきまでは母船で覆い隠されて見えなかった何もない空を2人は見上げる。
「終わったな、、、。」
祐介がボソリと呟く。
「、、、ああ、、、終わった。」
ようやく訪れた安息。
思えばこの一日ずっと落ち着く事は無かった。
色々な事が一度に起こりすぎて全てを覚えていられない位。
やっと緊張感から開放され、寝転んだまま力が出ない。
何も出来ない。
でもそれが少し心地よくも感じた。
「、、、しかし亮輔。女神がこのグラウンドに飛ばす事まで予想しとったんか?」
ふと祐介が空を見上げたまま呟く。
その言葉の意味は、飛行戦闘の前、
亮輔達が工場から飛び立つ時まで遡る。
それは工場の中、、、。
「俺に計画がある。」
亮輔は復活した祐介と梨緒を前に語り出す。
「この能力。交互に使っていけば無敵のはずなんだ。倒されても墜落する前にすぐ次を連想すればいい。それで女神の船まで攻め込む。」
この計画に能力は不可欠。しかし相手の戦力、飛行性、母船の構造など
得体が知れない相手なだけに飛行戦闘での戦略は練れなかった。
しかし、この能力。それを扱う技術、知力がある。
どんな状況になろうと俺ならどうにか乗り越えれる!
いや乗り越えてみせる!
そう亮輔は自分に言い聞かせていた。
「攻め込んだら、まずは祐介が時間を稼いで欲しい。」
今まさに戦闘機に積込もうとしていた"武器"の箱を開けて
亮輔は祐介に言う。
母船に突っ込んだ後の母船内での行動はこうなっていた。
ドーーン!母船に突っ込んだ亮輔たちの戦闘機から、
まずは祐介だけが機関銃を持って飛び出る。
煙の中、亮輔の姿は宇宙人達には見えていなかった。
再び計画。
「その間、俺は母船のあちこちに出来るだけ多くこのタイマーを仕掛ける。」
亮輔がもう一つ積込もうとしていた箱を開ける。
「、、、時限爆弾?」
梨緒がその姿を見て言う。
「そう、これを仕掛けて女神の母船を内部から破壊するんだ。」
亮輔が爆弾を1つ手に取り得意げに言う。
「!!」
2人がその計画に、というよりも爆弾という恐ろしい兵器や発想を目の当たりにして驚く。
それにすぐさま梨緒が口を挟むように言う。
「いやいや!そんなの!あなた達も巻き込まれるじゃない!!」
爆弾とはそういうものだ。その場の物を吹き飛ばす。
ましてやこの計画は"母船に侵入して"、、、というもの。
その時亮輔たちは必ず母船の中にいる。
「、、、だから時限性にしたのさ。まずおそらくこれだけの大きな母船だ。大分装甲も厚いだろう。一発、二発戦闘機のミサイルを当てたところでビクともしないだろうし、こちらがダメージを与えるより先に反撃されてしまうだろう。だから内部から破壊する。出来るだけ多く仕掛けるさ。」
「で、この後が計画が、分かれるんだけど、
①そのまま能力が使えれば、能力を使い、爆発前に脱出する。で、問題は、
②能力が使えない、又はなんらかのミスで捕まってしまった場合。」
祐介と梨緒が聞き入る。
「その時は女神の能力であえて飛ばされる。」
女神が心を読んだ時の『ヤジを飛ばすんじゃ!』
『女神を挑発しろ!』『もう少しだ!』
というのにはこういう意味があった。
「つまりは"女神の能力を利用して"時間以内に脱出するって事?」
梨緒が亮輔に問いかける。
亮輔が爆弾を手に持ったまま歩きながら見解を発表する。
「そう。正直こっちの方になる可能性の方が高いんだ。
女神の能力はおそらく"心を読んで"、"好きな物を飛ばせる"なんだ。野球までの戦いやがそうであったように。梨緒からこの施設の情報を抜き出した事や関連情報でもそれは裏付けれる。」
祐介はすでについていけずぽかんと亮輔を見つめる。
「そして、ポイントはボクシング以降。今までなら一つ連想をすれば"場所"と"物"が両者共に作用されていた。」
「しかし、"ボクシング"からは違った。互い互いが能力を使い合う。その能力は相手には作用されない。」
「それはその後、女神が居なくなった後も続く。と言うことは、女神は"能力を譲渡"する事も出来るんだ。」
「その能力の違いに気付いた時、女神がいる時は女神の能力。いない時は譲渡された能力。違う作用が発動される、という仮説にたどり着いた。」
「だから女神の母船では女神の能力下に落ちる可能性が、高い。」
亮輔はその場で歩き回っていたのを止めると、祐介と梨緒の方へ向き直り、力強く演説した。
「だったらその能力を全て利用してやればいい!」
つまりは亮輔の作戦はこうだ。
まず、なんらかの方法で母船の内部に侵入する。
その後、祐介が武器を使って思い切り暴れて宇宙人の気を引いているうちに亮輔は母船のいたるところに爆弾を仕掛ける。
仕掛け終わった逃げる!のだが、能力が使えない事を考え、まず捕まる。
その後で女神の元まで連れて行かれるよう誘導して、
女神の元へ辿り着いたら女神のへの挑発を繰り返す。
その時、心を読ませて、焦らせ、どこかに飛ばされる。
「そして、時限爆弾の設定時間は今から2時間後!」
亮輔の語りを聞いていた祐介と梨緒が「あ!」と聞いた事があるフレーズにお互い見つめ合う。
「流石の爆弾も、出来るだけ多く設置するつもりだけど、それだけではあの空を覆い隠す程の母船の質量を落とすには破壊力が足りない。」
そう!女神がくれた情報
『2時間後にある街を破壊します』
状況をより絶望にしたといえるその情報すらも亮輔は利用しようと考えた。
「街を破壊すると明言した女神の母船の破壊力。2時間後。そのエネルギーが母船には溜められているはずだ。」
「その爆発的なエネルギーで内部から破壊してやればいい。」
つまりは全ては亮輔の計算のうちだった。
『女神が心が読めない』と、間違った推理をしたのも女神に心を読ませる為のフェイク。
「、、、まあ、飛ばされる事は分かっていたがこことはね。」
亮輔が苦笑いしながら言う。
「実際、ラッキーだったよ。梨緒を心配させないように言わなかったけど、逆上した女神に、マグマの中や深海に飛ばされる可能性もあったからな。」
祐介が驚いて根転がっていた身体を起こす。
「おいおい!そんな裏があったんか!無茶苦茶やないか!」
そんな祐介にフッと笑いかけ亮輔も答える。
「まあ、俺達が蒔いた種。勝つためにはリスクも必要だろ?」
今まで負けると分かった勝負には挑まなかった亮輔が自分を犠牲にしてでも勝つことに拘った。
そして祐介も、自分勝手で俺に付いてこればなんとかしてやる!そんな自分を捨て、勝つために亮輔に頼った。
勝利に拘った亮輔と協力して力を発揮した祐介。
今までにない2人の関係が勝利を導いた。
その亮輔の大胆さに祐介も思わず、
「ガハハハハ!違いない。」
豪快に大笑いして、もう一度大の字になって転がる。
「だろ?、、、ククク。」
亮輔も思わずつられ笑いする。
思えば何年ぶりだろう。
2人で笑いあったのは、、、。
「、、、。」
「、、、。」
一通り笑い終えると2人は少し黙り込んだ。
何もない青い空を見上げる。
清々しい風がなびく。
2人とも各々で過去の思い出を振り返っていた。
ずっと幼い頃から一緒にいる2人。
そういえば昔はこうやって笑い合っていた気がする、、、。
いつからだろう、、、。
いがみ合って争いだしたのは、、、。
そう思うと、祐介が口を開く。
「、、、亮輔、、、お前のそういう頭の良さ。優等生で周りにはいつも人が集まる。
そんなお前に憧れてたのかもしれん、、、。」
その祐介の言葉にあまりに考えていた事が同じでフッと笑ってしまい亮輔も答える。
「、、、俺もお前の、真っ直ぐで、常に注目を浴びて、周りがついつられて動いてしまう。
そんなお前に、あこ、、、」
そこまで言うと、急に恥ずかしくなり、鼻を掻きながら誤魔化す。
「嫌いじゃないぜ。」
「!!」
祐介はその返しに、ムクッと上半身を起こすと、
亮輔の頭をガシッと持ち、ワシャワシャと髪をかき乱す。
「この!素直じゃないのう!」
その顔は笑顔に満ちている。