モクモクとした煙が晴れた空にポツンと空いた空っぽの空間が
宇宙船の集まる中央に空いている。
その一番外側で陣取るリーダー格の宇宙人の宇宙船から笑い声が響く。
「ハハハハ!、、、勝ったぞ〜!」
それにつられるように、緊張で張り詰めていた宇宙人達にも安堵が漏れる。
「やったのか?!」
「、、、勝った。」
「流石、リーダー」
一手で戦局をひっくり返す。流石といえるリーダーの攻防に宇宙人一同、喜びの歓声をあげる。
このリーダーがいる限り無敵だ。どんな敵が現れようとも怖くない。





「ミスディレクションって知ってるか?」
そんなリーダーの宇宙人の機体の背後に亮輔達の戦闘機。
他の機体の一番外側に陣取って居るだけに誰も気づかない。
「何じゃそりゃ?」
祐介が興味なさそうに答える。
難しい言葉は特にどうでもいいようだ。
何より難しい言いまわさなくても祐介にはこの状況が理解出来ていた。


それは、集中攻撃を受けている最中、、、。
「とりあえず祐介!イメージを湧かせ続けろ!」
その攻撃に耐えるように、しりとりでもするかのように連想を繰り返す亮輔と祐介。
爆発で辺りが煙で覆われる。
その時!一つの連想をした。

《『□□』→『戦闘機』=『F−22(ラプター)』》

F−22(ラプター)、、、鷹や鷲に代表
     される"猛禽類"を意味する名前の
     戦闘機。その鳥類の王ともいえる
     名前の通り、現在、存在する戦闘機   
     の中でズバ抜けた性能を誇る、
     最強の戦闘機。
     しかし、その最強と言われるには
     もう一つ理由がある。それは性能に
     プラスしてある"ステルス性"。 



煙で視界がほとんどなくなる。そこで頼りになるのは視界ではなくレーダー。
レーダーで存在を確認しながら攻撃をするしかない。
しかし、このラプターの"ステルス性"はレーダーに映らない。
レーダーで確認していた宇宙人はレーダーから消えたもののあたかもそこに"いた"かのように認識している。
しかし、その間に煙に紛れて移動していた。
亮輔達の戦闘機のレーダーには宇宙人の機体位置は全部映っている。
それをもとに、慎重に、バレないように。
そして気付いた頃にはそこに亮輔たちの姿はない。
それは意識が、目が、"いた"であろう空間に釘付けになっていたから。
マジシャンが手の中の物を消す意識の盲点を
突いたマジックと同じ。
『ミスディレクション』それは"意識の外"。 



「ハハハハハ!」
勝ちを確信した宇宙人が知る由もなく高笑いする。



そこに全く気付いていない背後から機銃を連続でお見舞いした。
「正直、かなりヤバかったけど。性能でも劣って無かったって言う事だな。」
「お返しじゃ〜〜!!」
ドドドドドド!



ドドドドドド!と、攻撃の衝撃がリーダーの宇宙船の機体に伝わる。
「へ!?」
ドカーーン!
本人すらも訳が分からないまま、
リーダー格の宇宙船は撃沈した。





「女神様!報告です!Z号機がやられました!」
母船の管理室がざわめく。
「なに!?リーダーが!?」
余裕でインターネットの掲示板を眺めていた女神からついに笑みが消える。
リーダーが倒された事。それは一番の頼りを失った事。
レーダーに映る機体が何の決まりもなく散り散りに動き回る。


「化け物だ〜〜〜!!」
母船の下では統率を失った飛行部隊が
逃げるわけでも攻めるわけでもなく
とにかく動き回る。
大混乱。
それ程の出来事だった。


「!?、、、相手はどこにおる!?相打ちにしては状況がおかしいじゃろ!」
女神が痺れを切らしてレーダーの映る管制モニターの前までフワッと飛んで降りてくる。
管制モニターを管理する宇宙人も訳が分からず首を傾げる。
「貸してみろ!」
女神が管制モニターの通信ボタンを押し、マイクを握り呼びかけた。
「飛行部隊!そっちはどうなっておる!応答せよ!!」
ザーザーとノイズ音が走る。そして、一機から連絡が入る。

「、、、女神様!!リーダーがやられました!」
その声は焦りと動揺で揺れている。
「知っておる!まだ敵機は健在なのか!?」
女神が声を荒げて言う。
その横で別のレーダーを見ていたもう一人の管制官が騒ぎ出す。
「女神様!機体A−5、G−4!やられました、、、。」
「!!」
明らかに存在する敵機。
女神の顔にも困惑の色が隠せない。
そこへ通信が入る。
「、、、はい!まだ存在します。いや、存在するのか?
それが、、、レーダーに映らないんです。」
レーダーに映らない機体、、、女神が通信を返す。
「新しい敵機か!!」
管制官からはそんな報告は受けていない。
しかしそう考えるのが妥当だった。
「、、、いえ違います!いや、、、実際違うかどうかも分かりません。」
通信機からは混乱した声が溢れ出るように流れる。
「もう何が何だか、、、。」
「倒しても倒しても蘇る、、、。」
「機体も形も攻撃もどんどん変わる、、、。」
「レーダーにも映らない、、、。」
「居たと思ったら消える、、、。」
「もう、、、姿、形のない化け物としか思えません!」
それを聞いた管制室がざわめく。
「どういう事だ!?」
「倒しても倒しても蘇ってくるだと!?」
「姿形のない化け物?」
「いや、でも実際レーダーにその機体は映っていない!」
得体の知れない敵に、統率者を倒したその脅威に
母船中が震撼した。
しかし、その中で一人だけ口に手を当て、冷静に考え込む女神。
敵は一機、、、?倒しても蘇る、、、?
居たと思ったら消える、、、?
「まさかのう、、、」
女神は一つの仮説にたどりつく。


「よし!とりあえず邪魔な敵機を蹴散らすぞ!」
亮輔がブンブン蝿のように飛ぶ宇宙船の中からめぼしいのを定め、背後を狙ってつく。
「まかせとけや!」
そこへ祐介がミサイル、機関銃と使い分け攻撃をかます。
打って変わって統率の乱れた部隊はいとも簡単に仕留めれる。
しかし、仕留める事が一番ではない。
「おそらくもう時間がない。とにかく周りの邪魔な敵機のみ蹴散らしたらすぐ母船を攻めるぞ!」
もう遊んではいられない。
一番の目的は母船の撃破。一刻も早く母船を撃破しなくては町が危ない。
敵機を倒しながらも母船の下に潜り込み弱点を探る。
その表情は焦りもみせながらもいつになく真剣だ。
「、、、そうでしたか、、、」
そんな2人の脳裏に再びあの聞き覚えのある声がこだました。
「!!」
「女神か!!」
辺りを見渡しても女神らしき姿は見当たらない。
おそらく母船の中からの声。女神の得意な直接脳に伝えてくるテレパシーのようなやつだ。
「やはりそうでしたか、、、」
女神のテレパシー。それはこちらからの声が向こうに届くかは分からない。
しかし、その声を聞いた瞬間、募った思いが祐介の中で爆発した。
「おい!出て来いや!女神!わしらを騙しおって!!」
何もない空間に罵声を浴びせる。
「、、、。」
それに触発されたのか。されてないのか。
聞こえているのか。いないのか。
無言の静けさから、ただ一言だけ返答が返ってきた。
「、、、おいたがすぎましたね。」
ガン!
それと同時に大きな音を立て、いきなり戦闘機の電気系統が全て落ちた。
「!!」
亮輔が操縦桿を前後に動かす。
戦闘機はピクリとも動かない。
操縦席にある目の前のスイッチをつけたり切ったり、
グチャグチャに全部のスイッチをいじってみる。
しかし全く動く気配すらない。
気付いた祐介も機関銃のトリガーを押してみる。
カチャカチャと空回りする音だけで依然なにも効果がない。
「、、、まさか!」
亮輔が一つの事に気付く。
「祐介!連想だ!次の機体の連想をしろ!」
亮輔に言われて慌てて目をつむり、連想をする祐介。
「、、、。」
「、、、。」
「、、、駄目じゃ。」
先程まではすぐに連想した機体にチェンジしていた戦闘機が今回、ウンともスンとも言わない。
「どれだけ考えても変わらん、、、。」
祐介が残念そうに肩を落とす。
「くそ!」
亮輔が思い切り配電盤を叩く。
もちろん全く動く気配はない。
しかし、戦闘機は徐々にだが先程まで動いていた推進力で
母船へ近づいていた。
「、、、。」
亮輔は考えた。
真顔で近づく母船を見つめる。
もう、それしか思い浮かばなかった。
「、、、。」
後ろで祐介は尚もカチャカチャ動かない機関銃のトリガーを押している。
「、、、祐介。仕方ない!」
「、、、なんじゃ?」
祐介のカチャカチャが止まり、前にいる亮輔の背中を見つめる。
「このまま突っ込むぞ!」
その号令で2人はその場で衝撃に備える為、キュッと頭を守るように丸まった。