トライアングル 下


オレンジ色の白熱灯が施設を薄暗く照らす。
そこはまるでハリウッド映画のような、ターミネーターの劇中に入り込んでしまったかのような
すぐにアクション映画が始まりそうなそんな光景。
「廃工場か?」
鉄筋に隠れつつ辺りの状況を探る亮輔。
人気もなく、機材が動いている音もしない。
ただ、ジーッと電気が流れるような音、
あと、赤く光る回転灯が気になる。
「何かの施設、、、?」
どんな場所のどんな施設。
考えてはみるが、まぁどちらにせよ女神の事だ。
「施設の人はどこか飛ばしたのか?」
人気のない建物。もし、施設だとしてもおそらく
人がいない、戦いに適した舞台を用意しているのであろう。
それよりも、、、。
キン!キン!
亮輔の隠れていた鉄筋の柱に弾痕と共に火花が散る。
今、晒されている命の危機。
それを回避する事が大事だ。



亮輔が隠れているであろう鉄筋へ向け、1発!2発!
弾丸を打ち込んだ祐介。
その衝撃で矢で射たれた右肩が鈍く痛む。
迷彩柄に変わった服の右肩は
既に血が滲んできている。
痛みを感じる度に亮輔への怒りが込み上げてくる。
「りょうすけ〜〜〜!!」
唸るように名前を叫ぶ。
その怒りに任せたまま、近くにある何かに被せてある布を

ピリピリッ!と引きちぎり、
止血をしようと
左手と口を使って右肩、脇の付け根にしっかり巻きつける。
「殺す!」



キンキン!
祐介が放ち続ける弾丸が金属音を立てながら周りの鉄筋や
床に穴を開ける。
その狙いを鉄筋の柱から柱へ、的を絞らせないように
走り抜け
辛くも避けながら亮輔は逃げ惑うしかなかった。
なぜなら
亮輔の手には拳銃はまだ握られていない。
「どうやらスイッチスタイルらしい。」
今まではどちらかの連想で左右されていた舞台が
怒り任せで発動した"ボクシング"から互い互いの連想で
能力が発動するらしい。
つまりは、この状況を打破する為には
連想をして武器を手に入れる必要がある。
「このままでは防戦一方、、、。」

その前に
まずは体勢を整えないといけない。
キンキン!
考える間もなく亮輔の隠れる鉄柱を弾丸が襲う。
「なんとかしないと、、、。」
周囲を伺う。
すると、少し先の鉄柱が入り組む向こう側。
鉄格子の階段の上に扉が見える。
「あそこまで行ければ!」
亮輔は扉へ向け走り出した。



祐介が右の掌をグーパーし、
上腕を鉄アレーで鍛えるかのように
上下させながら右腕の感覚を確かめる。
先程止血した効果もあり、
力の入らなかった右腕も徐々に力が入るようになってきた。
しかし、一向に収まらない痛み。
痛みを感じる度にムカつく。
怒りのボルテージは上がる一方。
頭を斜めに傾け、眉間にシワを寄せながら目を見開き
どこだ!と、探るように右手で鉄柱を掴むと
グイッと身体ごと覗き込む。
舐めるように見るがそこに亮輔の姿はない。
どこ行った!首を機敏に左右に振る。
すると、視界に人影が入った。
人影の方を再確認する。
入り組んだ鉄柱の陰からチラチラ見えるのは
亮輔の走る姿。
どこかへ猛スピードで駆け出している。
逃がさない!
「りょうすけ〜〜〜!!」
怒りを超えた憎悪に満ちた
低い叫び声を亮輔へぶつけ
祐介はターゲットへ向け猛ダッシュ!
同時に持っている拳銃を亮輔めがけて
バンバンバンバン!と連射する。



キンキン!
走る亮輔のすぐ脇の鉄柱に当たる弾丸の音と
祐介の叫び声が鼓膜に響き渡る。
無防備で走っていた事に気づき
とっさに両腕で頭を隠すように覆う。
キンキンキン!
足元、通過した前方のどこかでも弾丸が当たる音が聞こえる。
走りながら頭を抱えたまま振り返ると
腕の痛みがあるのか、照準を合わせようとしているのか
猫背に背を丸めながら
4本足か、2本足か分からない走り方で
全速力で向かってくる祐介の姿。
その姿から
本気の殺意を感じる。
「りょうすけぇぇぇ〜〜〜!」
何度も叫ぶ声と同時に
拳銃から火花と銃声が響き、
刹那に弾丸が降り注ぐ。
ヤバい!
ちょうど到着した前方の階段に
亮輔は身体を出来るだけ小さく丸め込み
手すりにすら触れないように
隠れ
階段を駆け上がる。
キンキンキン!
階段全体が金属音で包まれる。
「うあああああ!!」
その音をかき消すように叫び声を上げる。



バンバンバン!
祐介が拳銃を打ち続けるが
的の動く速度が早く中々命中しない。
闇雲に打っても仕方ないと
階段が丸々視野に入る位置で一度立ち止まり
拳銃の戦端と窪みの照準をしっかりと
階段を駆け上がる亮輔の動きに合わせ、
バン!
一発弾丸を打ち込む。



キン!
という音と同時に亮輔の左足のくるぶし辺りを弾丸がかすめる。
「っ!!」
拳銃の弾丸というものはスクリュー回転で飛んで来るため
かすっただけでもそのスクリューに肉がえぐられる。
ちょうど終えた階段。
しかし、左足に痛みが走る。
その痛む左足を抱えるように左手で持ち
右手で扉のノブをひねると
ズルっと力なく倒れ込んでしまう。



祐介がもう一度亮輔に照準を合わせる。
しかし、倒れ込んでいる為、的が余計に小さい。
ノブをひねった事で少し空いた隙間を潜るように入る亮輔。
急いで、
バンバン!
2発弾丸を打ち込む。



もぞもぞ歩伏前進ともいえないくらいの
不細工な形の這い方で隙間からなんとか足まで抜いた亮輔。
すぐさま鉄の扉を体重をかけて押す。
閉じる扉。
その隙間を1つの弾丸が抜け、亮輔の頬をかすめる。
ほぼ同時に飛んできたもう一つの弾丸は
閉まりかけている鉄の扉の向こう。
ちょうど押している両手の辺りに
ゴン!
と、鈍い音を立てて当たる。
その衝撃が両手の掌にもジーンと響く。
この扉の向こう。
下手したら直撃していたかもしれない弾。
打たれたくるぶしと頬の痛み。
それでもなんとか逃げ切ろうと
這って潜り込んだ隙間。
命からがらの恐怖と焦りで鼓動は高鳴り
ハァハァと息を切らせながら
なんとか扉に体重をかけ
押し切る。
カチャッ!
扉を締め切る音がする。
しかしお構いなしに扉の向こうでは尚も
ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!
八つ当たりをするような扉に当たる弾丸の音が
響いてくる。





「チッ!」
亮輔に逃げられ
銃を無造作に連射し
何度も何度も扉に打ち付けると
悔しさで祐介は舌打ちする。
そこには今までの亮輔に対する友人のような感情はない。
なぜならまだ自分は鬱憤が晴れていない。
この鬱憤は動けなくなるようにしてらやんと気が済まない。
そう思い歩きながら銃の弾倉を開ける。
弾倉から覗く弾は1つか2つしか見えない。
これを期に弾倉を外し、迷彩服のポケットに入っていた
新しい弾倉に取り替え、体勢を整える。
次は必ず仕留める!
そう言うかのように首を
左右に一回、二回。
ボキ!ボキ!と鳴らすと階段を
カン!カン!
力強く上り始める。

亮輔は歩伏前進から立ち上がると
頬の血を左肩の服で拭う。
くるぶしは少し痛むものの
血が滲む程度で歩けない程ではない。
びっこを引くように左足をかばいながら
扉から逃げるように遠ざかる。

祐介が扉の前に立つ。
特に扉の向こうに気配はない。
しかし、壁の向こうがどうなっているか分からない。
向こうの空間で亮輔がどう動いているか
殺気は立っているが警戒だけは怠らない。
扉の横に亮輔が待ち構えている可能性もある。
どうしてるにせよ、まずは開けないと始まらない。
祐介は左手で銃を構える準備をし、
右手でノブを下げると
思い切りドアを蹴飛ばして開けた!
ドン!と大きな音を立て
鉄の扉は飛んでいきそうな勢いで開く。
扉の向こうの景色がしっかり見える。
そこには同じようなオレンジの光の工場のような施設の風景。
ガン!と向こう側の壁に扉が勢いよく当たる音が聞こえるが、その音が響くだけで
全く何も起きない。
一転、シーンと静まりかえる。
祐介は蹴飛ばした足をゆっくり下ろすと、
顔の左横でアメリカ映画の如く、両手でしっかり拳銃を握り、警戒するように扉の横を覗き込む。

その瞬間!
ドーン!

覗きこもうときた扉の横の壁が突如として吹き飛んだ!
あまりの衝撃に、出そうとした顔を引っ込め、
すぐさま身を隠す。
壁はちょうど祐介の顔の高さの位置に半円で
えぐれるように吹き飛んでいる。

カチャッ!
亮輔が大きく引き金を引き、祐介の持つ拳銃の3倍ほどの
大きさの猟銃のような拳銃を構える。

《『拳銃』→『うつ』=『ショットガン』》

散弾銃と呼ばれるその銃は1つの弾丸に多くの弾が込められ
当たった瞬間に花火のように弾ける。
ジャイロ回転をしている拳銃と比べ貫通力は劣るも
破壊力は格段に上がる。






亮輔がショットガンの照準に扉の入口を入れる。
そこにチラッと祐介の頭らしきものが入る。
バーン!
そこへ目がけて、持っている銃が飛んでいきそうな程の衝撃で
1発弾丸を打ち込む。
ドーン!
音の衝撃と共に先程開けた半円の少し下辺りにもう一つ
穴があく。
それを確認するともう一度、手元の引き金を
大きくカチャッ!と引く。
「恰好の的だな。」
亮輔が入口に照準を合わせながら口に出す。
そう。
亮輔が狙ったのは"的を絞る"事。
ただ狙っていたのではどちらも条件が同じ。
むしろ初めから銃を持って連射をしていた分、
体勢が整わず、祐介の方が主導権を握ってしまう。
そこで扉から別の部屋へ移る事で
必ず通って来るであろう入口を狙っておけばいい。
「さあ、出てこいよ!祐介!」
完全に形勢は逆転した。

パラパラ、、、
えぐれた壁から破片が落ちる。
祐介は辛くも弾丸は避けるも
その破壊力に出るに出れないでいた。
「りょうすけ〜〜!調子に乗りおって〜〜!!」




1分経っただろうか?2分経っただろうか?
入り口に照準を合わせて、ずっと集中している亮輔にとって、1分、1秒がいつもより長い。
しかし、この集中を切らした瞬間、
おそらく祐介に形勢をもっていかれる。
一発でも貰ったら、即、死に繋がる恐怖。
このまま終わらせたい。
その気持ちが亮輔の集中力を保たせ続けた。
静かに静まる空間。
しかし、その静寂も数分とは持たなかった。

「おら〜〜!」

祐介の叫び声に反応し入り口に全集中を注ぐ。
その照準に祐介の姿を捉える。
亮輔は引き金を引こうとする。
が、否や
構えた銃を下げ
「やべ〜!」
すぐに柱に身を隠した。
その刹那に施設内に無差別に雨のような弾丸が降り注ぐ。

「おらおらおらおらおら〜〜〜!!!」
扉の前に立ちどこにいるか分からないターゲットに向け
無差別に銃を乱射しまくる祐介。
その腕に抱えられているのは、、、、。

《『ショットガン』→『うつ』=『マシンガン』》

機関銃と呼ばれるその銃は、他の銃が1回引き金を引くと
1発発射されるのに対し、弾薬を自動的に装填される機能を
もっている為、
常に連続して発泡する事が可能。
開発された第1次世界大戦時には塹壕(ざんごう)戦で
死体の山を築いた悪魔の銃として名が知られる。





一発でも当たれば致命傷の弾丸が雨のように降り注ぐ。
亮輔はその恐怖に柱に隠れ、一歩も動けないでいた。

「どこじゃ〜〜!!」
そんな亮輔に対し祐介は階段を降りながら
ドドドドドドド!!!
抱えたマシンガンを左右にスライドさせながら手当たり次第に乱射する。

亮輔は絶対に見つかってはならないと
身体を極限までギュッと縮め
抱えるショットガンも少しでもはみ出ないように
縦に抱え、鉄柱に身を潜める。
ドドドドドドドド!!!
しかし連射されるマシンガンの音が着実に近づく。
「このままでは確実に殺られる。」
焦りと不安で貧乏ゆすりのように身体全体が縦に揺れる。
なんとかしなくては、、、
恐怖が亮輔の頭脳をいつも以上に回転させる。

「おらおらおらおらおら〜〜!!!」
乱射する祐介の視界にはまだ亮輔は捉えられていない。

ドドドドドドドド!!!
雨のように降り注ぐ弾丸。
しかし亮輔はその隙に気付く。
雨のように見える弾丸も打ち手が左右に線を書くように
スライドさせている。
その為、線のように打ち込まれる。
「銃口の向き次第では逃げる隙はある!」
幸いにも祐介はまだこちらの位置を把握していない。
でもこちらは祐介の位置を完全に把握している。
「ならば、、、。」
亮輔はカチャッとショットガンの引き金を縦に引くと、
そのまま火花を見せないように柱に隠し
適当に斜めに発泡する。

ドーン!
施設の高い壁の上部が丸くえぐられ崩れる。その音に連射しながら
ピクッとその音の方に銃口を向けてしまう祐介。
ドーン!
今度は反対の壁の上部が音と共に刳れる。
なんだ!?
と、今度は反対側に銃口を向ける。

「今だ!」
雨のような連射が亮輔のいる柱とは遠い所で集中したのを
見計らって亮輔は柱から隣の柱へ走り抜ける。
その少しの間に
走りながら
一瞬だけ見えた祐介の姿に向け、
銃口は安定しないもののある程度目測は付けて
バーン!
と、一発弾丸を打つ。

ドーン!
祐介の頭上。
降りてきた階段のバルコニーのような足場が音と共に破片を撒き散らす。
その音にピクッと亀のように縮めた首。
パラパラと落ちてくる破片。
ふと頭上を見上げる。
すると足場がギーッと音を上げながら
襲いかかるように傾いてくる。
「うおおおおおおお!!」
マシンガンの連射に身体を揺らしながら
傾いてくる足場を集中的に連射。
キンキンキンキン!
火花と共に快音が響く。
火薬の煙が祐介の周囲をモクモクと包む。
足場はなんとか少し傾いた程度で保っている。
祐介はすぐさま銃を構え振り向く。
しかしあたりの煙も相まって亮輔はの位置や気配すら
見当もつかない。
ドーン!
それをチャンスと踏んでか亮輔の弾丸が
さらに追い込むように今度は祐介の居る直ぐ横の壁を
吹き飛ばす。
それと同時に
横にあったパイプが破裂し
ガスのような冷気のようなものが祐介の顔面目がけて
吹き出す。
「うおっ!?」
視界が奪われ、呼吸も出来ず
焦って両手でバタバタと払うようにガスのような冷気を
払い、
慌てて脱出する。



時は少し遡る。
走りながら発砲した亮輔は
偶然当たった足場が崩れたのに気を取られマシンガンを連射している祐介に気付く。
その隙を突き
祐介の横にある何かのタンクから出ているパイプに狙いを定める。
あえてパイプを撃ち抜いたのは
タンクから出ていればおそらくパイプに通っているのは
ガスか又は水。
そこを打抜けば、吹き出すガスか水で
さらに動揺を誘えるだろう。
それを狙った理由は、、、
亮輔は音や飛沫で視界と聴覚を奪い、
存在と足音を消して極力祐介から遠ざかる。

祐介にそれは全く気づかない。

なぜなら亮輔が居るのは2階。
祐介が気を取られている隙に
近くの別の階段を駆け上がり階段の上の
2階の部屋の中を移動していた。
つまりは、吹き出した蒸気で、視界と聴覚を奪い、
その間に上の階に移動したのだ。

マシンガンをしっかり構え、
左右にゆっくり振りながら
ドドドド!
と、たまに弾を連射しながら
一歩一歩ゆっくりと
歩みを進めながら柱の陰をくまなく探す祐介。
こみ上げる怒りを抑えながら
今度はいつ弾丸が飛んでくるかも警戒しながら
周囲八方を常に確認する。

そんな祐介の姿を亮輔の赤いスコープの照準が捉える。
「もらった!」

チュン!
祐介の右の太ももを
今までで一番静かに
しかし確実に亮輔の弾丸が撃ち抜く。

《『マシンガン』→『うつ』=『スナイパーライフル』》

狙撃銃と呼ばれるその銃は高倍率の光学照準器(スコープ)
と長い銃口によって
遠距離の射撃を容易にした銃。





亮輔が2階に上がった事。遠くまで避難した事は
ただ安全な場所へ逃げる為では無かった。
遠くに離れる事でショットガンの射程から離れてしまうが
同時にマシンガンの射程の外へと出ることが出来る。
そこへこのスナイパーライフル。
この銃なら遠くからの狙撃が可能だった。
そして、この高さ。
2階から1階の祐介は丸見え。
「これぞ、恰好の的!!」

ももを撃たれた祐介は力が抜けるように右ひざをつく。
「!!うが〜〜!!」
ひざをつきながらも抱えたマシンガンを狙ってきたであろう上空へ
ドドドドドドドド!
連射しながら振り回す。

祐介の弾丸は全く亮輔には届かない。
当たらない事を確認すると
亮輔はスコープでもう一度狙いを定め、一発打ち込む。
「もういっちょう!」

チュン!
今度は祐介の左肩を弾丸が貫通する。
「うが〜〜!!」
徐々に追い詰められる祐介。
弾痕からは血が流れる。

「さぁ!次は左足か、右肩か、、、」
亮輔がスコープで狙いを定める。

祐介が立ち上がろうとついていた右足に力を込める。
弾痕から流れ出す血。走る痛み。
「が〜〜、」
しかし頭に上った血が、吹き出す怒りが
ついには痛みを凌駕した!
ついていた右ひざを上げ、しっかりと地面に足をつけると
踏ん張るような体勢から
「うお〜〜!!」
グッと身体を持ち上げる。
同時にマシンガンをもっていた右肩あたりが輝き
マシンガンが消え、替わりに現れたのは、、、。

「!!まさか!!」
亮輔が捉えていたスコープで祐介の持つ
その"もの"の姿を確認する。

《『スナイパーライフル』→『うつ』=『バズーカ』》

大砲と呼ばれる大型の発射器。大きな弾薬の入った弾丸に
火をつけ、その爆発の推進力で弾を飛ばす。
その破壊力と射程から、多くは大型の装甲車、建物。
広範囲での破壊を目的に使用される。





祐介の右肩に担がれているのは
緑色の大きな筒状のバズーカ砲。
「吹き飛べ〜〜!!」
担いだバズーカを右手でしっかり支え、
左手で引き金を引く。
ドーーーン!
低く大きい爆発音と共にバズーカ砲から弾が発射される。
発射の際に後方から吹き出た爆風と煙。
その衝撃だけで辺りのものを吹き飛ばしてしまいそうだ。

祐介の放った弾は孤を描き
亮輔が入っていたであろう2階部屋に到達する。

これは感覚で放った弾だった。
自分の身体を貫通した弾丸の角度でなんとなく
高いところ。そこに見えた部屋のような扉。
カンで放った弾丸。もちろん亮輔の位置を掴めているわけではない。
部屋の中?部屋の外?別の扉の中?
そんなのお構いなしの一撃が炸裂する。
ドカーーーン!!
扉の入口から入った弾が部屋の室内で爆発。
大きな音と煙。
爆発の衝撃で煙の中から
鉄の塊やコンクリート、何かの部品など
すべてが入り混じった破片が勢いよく吹き飛んでくる。
その破壊力の大きさが
3倍以上に吹き飛び広がった扉の入口の大きさから伺える。
どこに居ようが同じ。
問答無用。手当たり次第に吹き飛ばすだけだ。
そう言うかのように
祐介は
ドーーーン!
ドーーーン!
手当たり次第に弾を打ち込み
亮輔を炙りだすように破壊していく。

ドカーーーン!
ドカーーーン!
弾を撃ち込まれる度に壁が吹き飛び
室内をさらけ出しながら
形を無くしていく部屋。
瓦礫と煙が散乱する。



ガラガラ、、、
一気に雰囲気の変貌した部屋。その一角。
いつのまにか爆風で吹き飛ばされた身体に覆い隠すかのように乗っかった瓦礫を払いのけ
立ち込める煙でゴホゴホと咽せながら
ムクッと身体を上げる亮輔。
辺りは白く濁り視界が殆どない。
ただ分かるのは
ドカーーーン!
音と共に部屋が一部吹き飛んだかと思うと
爆風が襲いかかり、瓦礫と煙が更に濃度を増す。
手当たり次第に破壊される建物。
次はいつこちらが壊されるかも分からない。
吹き飛んだ空間から自分がそこに居たらどうなっていたか
容易に想像が出来る。
鉄やコンクリートすら破壊するバズーカ。
直撃したら確実に木っ端微塵。
近くで爆発に巻き込まれただけで無事では済まないだろう。
桁違いの威力に
「とりあえず逃げなければ、、、」
這うように立ち上がり今爆発した場所から遠ざかるように
走り出した。

「おら〜〜!!」
ドーーーン!!
バズーカの爆音と祐介の声がシンクロするように施設に響き渡る。
目標からはモクモクと煙が立ち込め、破片が勢いよく飛び散る。
あからさまに部屋は原型を無くしていく。
しかし、それでも気持ちは晴れるはずもない。
肩と腿から血が流れ落ちる。
あいつもわしと同じように血を流したか!!?
わし以上に傷を負った姿を見んと収まらん!!
流れる血をお構いなしに全身を使ってバズーカを打ち続ける。
狂気を感じさせる程、無茶苦茶にがむしゃらに。
その立ちぼる煙から亮輔が姿を現す。
「見つけたぞ〜〜!!」
重たいバズーカの銃口を持ち上げるように左腕で上げると
マサカリを下ろすように振り下ろし照準を合わせる。
バズーカの照準に遠くちいさい亮輔が入る。
「グチャグチャに飛び散りやがれ!!」
思いっきり感情と力を込めて引き金を引く。
ドーーーン!!
撃った弾はウネウネと軌道を変えながら
まるで意識を持ったかのように逃げる亮輔を追う。

亮輔が振り返る。
すると弾が自分の方に迫ってきているのが分かる。
「うわああああ!」
声を上げて走る。
しかしどんどん距離は縮まる。
顔を赤らめ全力を出す。
すぐ後ろには弾。
と、空いた出口から次の空間へ。
背後の弾も出口を抜けようとして
出口の側面の壁にかすり
ドカーーーン!!
爆発。
辛くも直撃を免れた。
が、爆風で投げ出されるように吹き飛ばされる亮輔。
そのまま目の前の階段に叩きつけられ
勢いでゴロゴロ階段から転げ落ちる。
階段を下まで転げ落ちる頃には全身を強く打っていた。
身体全体が意識が飛びそうに痛い。
なんで俺がこんな目に、、、。
亮輔は今まで祐介を狙って攻撃はするも、
腕を撃ったり、パイプを撃ったり、腿を撃ち抜いたり。
それは祐介の攻撃を止める為だった。
動きを止める為だった。
しかし、今、祐介は腕を撃ち抜いても攻撃をしてくる。
腿を撃ち抜いても進んでくる。
亮輔の頭に女神の事が浮かぶ。
「思う存分戦いなさい。」
この言葉は一見、気の済むまで自由に戦っていいと言う言葉。
しかし、同時にそれはお互い気が済まなければこの戦いは終わらない事を意味する。
亮輔は祐介が戦闘不能になればこの戦いは終わると思っていた。
武器が扱えなくなる。歩けなくなる。
しかし、その考えは甘かった。
祐介はもう痛みも感じず迫ってくる。
しかも祐介の目的は、、、
拳銃でもマシンガンでもバズーカでも確実に仕留める!
命を狙って来た事で必然と分かる。
「、、、、!」
亮輔は一つの答えに達した。

祐介が堂々と1階で繋がる大きな入口から第3の施設に侵入する。
今までと違い、柱なども少ないだだっ広い倉庫のような空間。
しかしどこでも関係ない。
ブランと下げて持っていたバズーカを
フン!と肩に担ぎ、
ドーーーン!!
ドーーーン!!
手当たり次第に乱発する。

ドカーーーン!!
ドカーーーン!!
爆発音が五月蝿いくらいに施設内にこだまする。

「りょうすけ〜〜〜!!出て来いや〜!!」
その遠吠えにも似た叫びに呼応するかのように
シュー
シュー
破壊した壁の鉄パイプから、ところかしこに蒸気が吹き出す。

亮輔は影に隠れていた。
辺りは爆発音と破裂音。怒号が飛び交う。
そんな中、気配を消すようにひっそりと隠れる。
破片や爆風が襲う。
しかし、微動だにしない。

狂気に狂う祐介。
破壊と狂気の境地。
ドーーーン!
ドーーーン!
もう誰にも止められない。

ドキドキと心臓が高鳴る。
相手に聞こえるのではないか?
不安になるほど。緊張で額に流れる汗ですら
音をださないようにひっそり流れる。
「バズーカ砲。」
「その破壊力と射程距離は他の兵器と比べて群を抜いて高い。」
亮輔は息を潜めながら来たるときに向け構える。
「しかし、、、」
のしのしという足音とドーーーン!という発射音が
徐々に近づく。

祐介は
ドーーーン!
ドーーーン!
バズーカを鳴らしながらも
ジリジリと真っ直ぐ前進する。

「その弱点は破壊力があるが故に取らなければならない間合い。」
バズーカの弾丸の爆発的な破壊力は、もし近くにいれば大ダメージ。それは当然祐介本人にも当てはまる。
だからこそ、遠くの物を破壊するのに適している。
かと言って、バズカーカの間合いの内側。
狂うような様相の祐介は到底近くに寄れば危険を伴うだろう。
だからこそ!!
その歩く祐介のすぐ横。
壁の影になっている部分に身を細め、
同化するように存在を殺していた亮輔。
気付かず目の前を通過したのを見計らい。
ダッ!と、飛びかかり、
祐介を背後から両肩を腕でガッチリ羽交い締めにする。
「長い銃口はその懐にスキを与える!」

「が〜〜〜!」
亮輔の羽交い締めに祐介は掴んでいた引き金を離してしまい
右肩に乗せて固定していたバズーカは
その重みで
ドシッと床に落ちる。

祐介が力いっぱい羽交い締めした身体の中で
身体を思い切り揺らしながら暴れる。
亮輔の服には祐介の両肩から出た血が徐々に滲んでくる。

「離せや!りょうすけ!!」
祐介の掌が羽交い締めした亮輔の腕をがっちり掴み
引き剥がそうと引っ張る。

その力の強さに思わず腕を解きそうになりながら
亮輔は「う〜!」と、踏ん張るような声を出し
なんとか耐える。
離したら終わり。剥がしたら勝ち。
それはお互い理解していた。
しかし、力ではどうしても祐介には勝てない。
亮輔は羽交い締めにしたままで
右の掌に握っている"それ"を祐介の首に突き立てた。

《『バズーカ』→『うつ』=『注射』》

注射。円筒型の筒(シリンジ)に薬物を注入し、
可動式の押子(プランジャ)で生物の体内に注入する事。





プスッ
祐介の首に注射器の針が突き刺さる。
「え!?」
思わず祐介の動きが停止する。
そこには人を死に至らしめる毒薬。

「死ね!祐介!!」
亮輔は注射器のプランジャをグッと押し込む。

「が〜〜!!」
祐介がそれに対抗するように力いっぱい暴れる。

亮輔の腕は祐介の何度も引き剥がそうとした掌の力で
ミミズ腫れのように腫れあがる。
しかし、亮輔は離さない。
そのまま最後までグッとプランジャを押し込む。

「が、、、。」
今まで叫んでいた祐介が急に黙り込み、
糸が切れた人形のようにその場にドサッと崩れ落ちた。


あたりはやけに静かに静まり返っていた。
シューッという蒸気の音、ジーッという電気の流れる音も
耳に入らないくらい謙虚に聞こえる。
それは終幕を感じさせた。
レースから始まり、障害物競争→ボーリング→バドミントン→野球。
徐々に感情がむき出しになり本気になっていく。
ボクシング→剣道→弓道→拳銃。
相手を傷付ける事でさらに危険度は増していく。
ショットガン→マシンガン→スナイパーライフル→バズーカ。
死と隣合わせの攻防。
追う者と追われる者。
その中で必然と、追い詰める為の攻撃力 対
逃げる為の知力 と、
お互い得意分野で攻め合った。
結果勝ったのは亮輔の知力。
「はあ、、、はあ、、、」
興奮とも恐怖とも取れる動悸に亮輔息を切らせる。
足元にはこと切れた祐介の姿。
全く動きもしないその姿に、
「、、、やった!」
今までの恐怖から開放された安堵感。
「、、、勝った!」
敵を倒した!という達成感が溢れてくる。
「俺の勝ちだ〜〜!!」
施設にこだまする亮輔の雄叫び。
次第に感じてくる痛み。
よく見ると腕はミミズ腫れ、全身にはアザ、
銃弾がかすめたのか至るところに小さい傷が沢山ついている。
痛い、、、。
それはここに至る道が如何に厳しかったか。
そう物語っていた。
「はあ、、、。」
よくやく終わった長い戦いに疲れの大きなため息が漏れる。
「なんでこんな目に、、、。」
そう思うと、ふと我に還る。
そして思い出す。この戦いの目的。
梨緒を勝ち取る事。
「、、、梨緒!!」
無性に溢れる梨緒への想い。
木材の下敷きになった梨緒。
安否は、、、?具合は、、、?
確かに女神が病院に連れて行ったはずだ。
心配と不安で亮輔は周囲、上空をすがるように女神を探す。
「女神〜〜!!」
探してもいつも居るはずの女神の姿が見当たらない。
確かにこの戦いが始まる前には声が聞こえた。
「俺の勝利だ!!」
しかし、こういう時に聞こえてくるはずの『勝者〜!!』
というのが聞こえて来ない。
「梨緒に会わせてくれよ〜〜!!」
すがるように、泣きつくようにへばり付いた壁を両手で
ドンドン叩きながら叫ぶ。


「亮輔、、、。」
すると入口の方から聞きなれた声が聞こえる。
「え!?」
高い、でも少し落ち着いた心地のいい声。
いつも力をくれた、あの声が聞こえた。
亮輔は壁を叩くのをやめ、入口へ振り返る。
「、、、梨緒!!」
そこには確かに梨緒の姿。
頭に包帯を巻き、入り口に寄りかかりながらもしっかり立っている。
「これは女神のご褒美だ!」
亮輔の目には喜びと安心で涙が滲むも、
「勝者への祝福だ!」
その涙を切るように手で払い、
「ついに俺は手に入れたんだ!!」
満面の笑みを浮かべ、
「勝ち取っだんだ!」
走り出した。
「梨緒〜〜!!」