「陽菜から謝って来てくれたんだよ。昨日はゴメンって」

「へぇ…」

「それからは色んなお話してたんだ。すっごく楽しかったよ。あの雑誌の束を見つけるまでは…」

容赦なく俺の心を貫いて来る美咲の冷たい言葉。

「…ごめんなさい。全部捨てます」

「全く…当然だよ!」

美咲は相当お冠だ。俺の分のチーズケーキを献上しても、未だ機嫌が治らない。

「で、お兄ちゃん?次のアルティメットの練習日はいつかな?」

「今週末の土曜日かな。って、陽菜!?お前いつの間に……?」

「合い鍵」

陽菜は得意げに鍵をくるくる回す。こいつ、いつの間に作ったんだ?

「ねえ、陽菜、裕也。
私、莢未さんのこと知りたいな」

莢未。その言葉に、俺と陽菜は一瞬固まる。

「お…俺はいいけど」

俺は陽菜の方を見る。莢未のことを話すとなると、どうしても莢未の最期も話さないとならない。
それに陽菜が耐えられるかどうか……。

「お兄ちゃん、私なら大丈夫だよ。話してあげて?」

何か覚悟を秘めたような陽菜の目。

「分かった、じゃあ話すぞ。あれは中三の頃だったかな…」

窓を開けているせいか、春の風が俺の部屋に入って来る。

「そうそう、こんな春風吹き抜ける頃に会ったんだ。莢未にはさ…」

あの時、俺が手を離さなければ莢未はきっとここにいた。美咲じゃなくて、君がいた。莢未。守れなくて、ごめんな。