「ねぇお兄ちゃん」

一陣の風が吹く。陽菜はポツリと呟く。

「あの時、私が、死んでれば良かったのかな?もし私があの時に、あんなはしゃいでなければ…」

「陽菜…!!」

陽菜が、現金な性格になったのも、少し冷めた性格になったのも……全てはあの事件の後からだった。。だけど、陽菜は悪くない。きっと、莢未もそう思ってる。

「……莢未は自分が死んだのをお前のせいにしたりするような奴じゃない」

「……じゃあなんで?なんで私達には莢未が入院した病院が教えられなかったの?」

「……それは」

俺は答えに窮した。それは陽菜の言うことを、俺も疑問に思っていたからだ。事故に遭い、救急車で運ばれていく変わり果てた莢未の姿に、呆然としていた俺達に後から伝わって来たのは、『莢未が死んだ』ということだけだった。

「…もし。もしだよ?
莢未が生きてたら…お兄ちゃんは、また莢未と付き合う?」

「……分からない」

以前なら、『付き合う』と即答できた。だけど、今は違う。

「あ、裕也!来るの早いんだね!」

そう言って、俺に駆けてくるのは美咲。美咲が俺の心にいる。莢未と美咲。二人の内一人だけなんて俺は選べなかったんだ。