「あの、榎本さん……」

俺は、この5時間目の授業中に何度このセリフを繰り返しただろうか。結局、昼休みに出した結論は、本人に聞けとのことだった。だけど、さっきから榎本さんはそっぽを向いて反応してくれない。

「じゃあ次、神代君。この英文訳してみて?」

「え…?えっと……『彼女は彼氏が浮気したことを怒っています』ですか?」

「Perfectです」

クラスから沸いた歓声に、俺は少し天狗になりながら席に着いた。英語の質問なら、ちょいちょいと答えられる。まあ、通訳になる以上は当然かもしれないが…。

「……英語出来るんだ」

意外そうに顔を俺に向けてくる榎本さん。だけど心なしか顔が赤いし、目は合わそうとしない。

「まあ、少しは……」

その時、俺のポケットに入っている携帯が小さく震えた。俺は先生に見つからないようにこっそり確認をした。それは大地からのメールだった。

『美咲と呼べば、すべてが解決』

は……?俺は、ページを下に送ったが、やはりこれ以上に文はない。俺は大地の方を見た。大地は、頑張れとばかりに右手の親指を立てる。大地のことだ。何か考えがあるんだろう。

俺は、覚悟を決めた。