「びっくりしたんだよ?やっぱり神代君一人には掃除させられないって思って教室戻ったら…倒れてるんだもん」

目の周りをハンカチで拭いながらも、その声には怒気がこめられていた気がした。

「…あはは」

「笑い事じゃないよ!呼び掛けても…何の返事もしなかったから…私…死んじゃったのかと…」

震えた声と同時に、榎本さんのハンカチが再び濡れだす。俺は慌てて謝った。しかし、何度謝っても、榎本さんは泣き止んでくれない。俺は何て最悪な男なんだ…。

「…れ?」

震えた声の為に、よく聞き取れなかった。俺が聞き返そうとした時だった。

「莢未って誰?彼女?」

榎本さんが知るはずもない名前を口走った。何で榎本さんが莢未の名前を知ってるんだ?俺がその疑問を口にだすと、榎本さんは呆れたように俺を見て来た。

「あんだけ『莢未』って呼び続けたら…気になるのは当たり前だよ」

まぁ、あんな夢見てたらうなされるのも分かるかもな……。

「俺…呼んでた?」

「嫉妬しちゃうくらい」

え…?榎本さんの言葉に俺の胸が騒ぎ始める。

「今…何て?」

「え?……あ!」

見る見るうちに榎本さんの顔が真っ赤に染まっていく。分かりやすい人だな…。

「ねぇ、何て?」

「えっ…と、その…」

しまいには手をモジモジとし始めた。その姿はとても可愛かった。も…もう駄目かも…。

「…榎本さん!俺…」

俺の理性が限界を迎えたその時だった。保健室の扉が思い切り開かれた。