「お前、さっきから何携帯見てニヤニヤしてんだ?」

「いや…俺の携帯に沙梨奈ちゃんのアドレスがあると思うとな…」

なるほど。だいたいの事情は分かったが、第三者から見ればただの変人だ。

「お前ら、席付け…って神代。今日は早いなお前」

気がつくと後ろには、俺達の担任の猪頭がいた。

「やだなぁ先生。俺はいつでも早いっすよ」

「だったら早く席に付け」

猪頭からげんこつを頂戴した後、俺は自分の席に着いた。

「おはよー神代君」

俺に挨拶をしてくれるのは隣の席の天使、榎本さんだ。今日の電話のお礼を言わないとな。

「おはよー。後、榎本さん。今日は電話してくれてありがとね?」

「びっくりしたよ。第一声が『誰だよもう』だったから…」

そう言ってクスクス笑う榎本さん。もうその行動の一つ一つがツボだ。

「ご…ごめん」

「あ、平気だよ?それより前向かないと…」

榎本さんに言われて俺は体を前に向けたが、どうやら遅かったようだ。

猪頭は見るからに不機嫌な顔で俺を睨んでいる。

「俺が部活紹介の説明をしている時に…神代、楽しそうだな」

「はい。先生の長い話を聞くよりかは、やっぱり可愛い子と話した方が全然楽しいっスね」

クラスからは、所々小さな笑い声が聞こえた。しかし、それが猪頭は気に食わなかったらしい。