「お兄ちゃん…」

私は学校に行っても上の空。夏休みの間、もしかしたら、いつかお兄ちゃんが元気に帰って来るんじゃないかって思ったこともあった。

だけど、やっぱりお兄ちゃんは帰ってこなくて。

私は泣きっぱなしだった。部屋で、お兄ちゃんの写真を見つけては……涙が溢れ出していた。

「陽菜ちぃ…おはよう…」

「綾香、おはよ……」

綾香には、私のお兄ちゃんのこと全部話した。一緒に泣いてくれた。そして励ましてくれた。

『陽菜ちぃのお兄ちゃんの彼女だった美咲さんが耐えてるんだから、陽菜ちぃも頑張んないと!』

確かに、美咲は強かった。お兄ちゃんの為に、すっごく丁寧にケアしていた髪をばっさり切って、お兄ちゃんと一緒に燃やした。

『陽菜、私ね。裕也の分まで強く生きていく。だから、困ったことがあったら私を頼って?』

……強がりだって、中二の私でも分かった。目の下には、泣き腫らした後があったし、今の声も少し震えていたし。

だけど美咲は、お通夜でもお葬式でも涙を流さなかった。ずっと、耐えてた。握った拳を、血が出るくらいに握りしめて、グッと耐えてた。

「美咲さんって、強いよね?」

「……自慢の姉ですから」

そう。美咲だって耐えてる。だったら、妹の私だって頑張らないとね?私は、綾香に無理矢理作った笑いを浮かべた。

「陽菜ちぃ。作り笑いも大きな一歩だよ?」

私は、いつまでもお兄ちゃんに心配かけていられないんだ。

大好きだったお兄ちゃん

ううん……。

今でも大好きだよ。
お兄ちゃん。