いつもと変わらない満員電車に私は揺られていた。

「次は、菅代菅代…」

変わったのは、裕也んが乗ってこないだけ。私は、初めて裕也んと出逢った時のこと、思い出す。

始まりは、ただの好奇心だった。一度も会ったことのない、いとこ。その人がどんな人か見たかっただけ。

だけど、初めての満員電車は私が想像していた以上に窮屈で…。しかも私は、変なオヤジに身体をさらわれて…。

正直、泣きそうだった。そんな時に助けてくれたのが、裕也んだった。

「次は河岸、河岸」

そうそう。この駅だった。裕也んが私とオヤジの手を強引に引っ張って降ろしたのは……。

だけどもう痴漢される事なく、普通に降りる。

「何だか、思った以上に裕也んがいるんだね……?」

たった四ヶ月。それなのに、裕也んは私のかけがえのない大切な親友になった。だけど、もう泣かないよ。涙なら、あの日に全部流した。

裕也ん、私のことなら心配しないで? 私、元気にやっています。

「渚、おはよ!」

クラスメイトに声をかけられた私。私は軽く挨拶を返してから切り出した。

「サヤカ。あのね、世界で一番かっこよかった男の子話してあげるよ!」

……裕也んは私の思い出の中でずっと生き続けています。