「ね…ねむい」

あの後、急に帰されたものだから、真夜中で体は完全に睡眠を欲していた。

「いやー皆ごめんねー!まさか、私たち以外にあの別荘使うなんてさ!」

ヘラヘラ謝る渚に、俺達は少しムカついたが、それ以上に最高の思い出を作れたから、と無理矢理に思い込ませようとした。

「お兄ちゃん、美咲。早く帰って寝ようよ!」

信号は、すでに赤と青の間で点滅していた。皆は急いで渡る。俺は、美咲の荷物を抱えて、美咲の手を握って走った。

この時、気付けば良かった。

「……えっ」

俺の手から、美咲の手が滑り落ちた。

美咲が、目を抑えてその場に倒れ込んだ。

信号は赤に変わる。真っ暗だったからだろう。車は、信号が変わった瞬間に、容赦なく動き出していた。

「……お兄ちゃん!!」

世界が、やけにゆっくり感じた。

そして、あの夢を見た。

俺と莢未が二人で仲良く歩いている夢。しかし、莢未のところにそこに車が突っ込んでくる。

俺は必死になって手を伸ばすものの、届かない。また、か……。

しかし、この時だけは違った。

トン、と誰かに肩を押された。その反動で莢未をつかまえ、俺の胸の中に抱き寄せた。

『…裕也。生きて?』

美咲の声が聞こえた。

何でだ?何で、みんなの声が聞こえないんだ?

「……」

あれ?俺の声も出ないや。おかしいな。

ねぇ、美咲。
俺の声、届いてる?