「耕平君、嬉しいよ。私」

莢未は耕平君に笑いかけてから、隣に腰を下ろした。

「だけど……私」

「いいんだ。分かってる」

そう言う耕平君の顔は、笑っていたけど、心の読めない私だけど分かったよ。泣いてる……。

「気持ち、伝えることが大切だって分かって嬉しいよ」

砂を軽く払って立ち上がって、そのまま、莢未に振り向く事なく別荘へと戻っていく耕平君。

「耕平君。私……」

「いいって!逆に優しくされたりすると……辛い」

莢未、泣いてる。心の中が見えてしまう莢未…。今いったい、あなたは何を感じてるんだろう?

「沙梨奈ちゃん。こーいう時は、『大嫌い』っていって突き放してくれた方が……」

「言える訳無いよ…そんなこと」

耕平君は、どんどん莢未から離れていく。莢未からは見えてないけど、私からは見えるんだよ。

「……ありがとう」

耕平君の涙。だけど莢未も気付いてるのかな?砂浜に点々と続く、水滴のこと……。

「…耕平君の馬鹿。何で…何で、こんな温かい心を私なんかに向けるのよ……」

私は、砂浜に一人うなだれる莢未の肩に手を置いた。

「分かんないよ。好きってなんなの?」

莢未の呟きは、波に消えていった。