「裕也ーん!」

河岸駅に着くとすぐに渚が俺に抱き着いて来た。

「く…苦しい…」

抱き着くというよりかは、締め付けると言う方が正しいだろう渚の行為に、俺は人生の終わりを覚悟した。しかしその時、澄み渡るような綺麗な声が聞こえて来た。

「渚、そこら辺にしないと神代君死んじゃうよ?」
どこで聞いたことあるような声だな……。ともかく、その声のおかげで、俺は渚から解放された。

俺は御礼を言おうと恩人の顔を見た。

「え…!榎本さん?」

「さっきぶりだね?神代君」

俺は何か言葉を発しようとしたけど言葉が出てこない。完全にあがってしまっていた。

「驚いたような顔してるね?私と渚は中学からの友達なんだよ?渚から聞いてなかったの?」

俺は頭の中で情報を整理する。そう言えば執事さんが言ってたな…。

『友達と呼べる方は一人しか出来なかった』

そ…それが榎本さん?

「私と美咲みたいな可愛い子と買い物に行けて、裕也んは幸せだねぇ。じゃあ行こうか!」

ちょっ…まだ心の準備が出来てない!
 
そんな心の叫びが渚に届くわけもなく、渚は、俺の手を引っ張るように歩き始めた。