「これなら、どうだ!」

莢未が残った体力が少ないのにも関わらず渾身の力を込めてフリスビーを投げた。しかし、体力が少ないのは陽菜も同じだった。

「あっ……」

陽菜の足がよろける。

「危ない!」

莢未は駆け寄って陽菜を抱きしめた。

「おい、もう沙梨奈も陽菜も限界だろ?そろそろ帰ろーぜ」

しかし、陽菜は固まったように動かない。

「おい……」

「……この温もり、覚えてる。莢未……。ねぇ、莢未なの?」

ザザーン。波の音が耳につく。陽菜の体は微かに震えている。

「……な訳無いか。莢未は私のせいで死んじゃったんだし。何言ってるんだろ?私……」

莢未は陽菜をギュッと抱きしめ、陽菜の髪の毛を優しく撫でた。

「……陽菜。私は陽菜のせいだなんて、これっぽっちも思ってないよ?」

「え……?」

「……私は、自分からあなた達の前から消えたの。だから、謝るのは私の方なの」

莢未の目から雫が落ちた。その雫が砂浜に染みを作っていく。

「陽菜、あの日、急に消えてホントにごめん。だけど、私は……莢未だよ?確かに、ここにいるよ?」

莢未がそう言うと、陽菜は莢未に自分からしがみついて泣いた。

「……ホントだ。莢未……。莢未がいる。莢未が……いるよ……」

あの事故から、一年。
陽菜が感じていた負い目。『私が莢未を殺した』と言って自分を傷つけた陽菜。

だけど、もう大丈夫。陽菜は過去を払拭できた。だから、今日だけは、陽菜を“姉ちゃん”に預けるか…。

俺は砂浜に道を刻んでから、別荘へと一人戻った。