コンコン。
部屋で、読み掛けの小説を読んでいた頃、ノックの音が聞こえた。

「陽菜か?」

すると、そいつは俺の確認を取らずに、勝手に部屋に侵入して来た。

「お兄ちゃん。この紙に書いてある旅行ってホント?」

「……ああ」

「私も行っていいのかな?」

ん?陽菜にしては随分消極的だな。

「陽菜、遠慮してるのか?」

「何か、嫌な予感がしてさ。思い過ごしだったらいいんだけど……」

「……気のせいだよ」

「ねぇお兄ちゃん。どこにもいかないで?陽菜を一人にしないでね?」

陽菜はいきなり、俺に抱き着いて来た。普段見せない、陽菜の表情に俺は少し戸惑う。

「こんな可愛い妹を一人にする訳無いだろ?」

「最近ね…お兄ちゃんが私の前から消えていく夢をよく見るの…。莢未もお兄ちゃんも…美咲も…私を置いて…ぐすっ…」

「…俺はここにいるだろ。だから、心配するな」

俺は、陽菜の髪を撫でてやるが、陽菜は中々泣き止まなかった。こんなに泣いてる陽菜は初めて見る。

「陽菜、大丈夫だから。お前や美咲を残したまま…消えたりなんかしないよ」

「…約束して?」

「…え?」

俺が戸惑っていると、陽菜は強引に俺の小指に陽菜の小指を絡めて来た。