杏寿と付き合ってもうすぐ1年が経とうとしていた。水篠と呼ぶことが当たり前だった頃から一転して、今では杏寿と呼ぶことに何も違和感はなくなった。


「伊澄くん、おねがい」


お風呂上がりで火照った顔をした杏寿がドライヤーを手に持ってソファに座ってる俺に自然な感じで近寄ってくる。

明日は俺も杏寿も仕事が休みだから俺の家に杏寿が泊まりにきていて、そういう時は決まってお風呂上がりの杏寿は俺に髪を乾かしてと言う。


そういう日常に紛れる些細なことにすらふいに泣きそうになる時があることは、杏寿には言えない。


自分でも女々しくて情けない男だって自覚はあるんだよ。それはもう高校の時から。


「うん。おいで」

「やった。伊澄くんに髪触られただけで自分の髪がすごい特別に思えてくるから嬉しい」


そう言って柔く笑う杏寿に、ドライヤーなんかしてる場合じゃなくなってきて、杏寿の知らないとこで1人葛藤する。


こんな葛藤も、高校時代の俺にはありえないことで、杏寿に悩ませられても振り回されても幸せだって思うんだから俺の頭はきっといまだに1年前からずっと浮かれてる。

真崎さんにだって浮かれすぎだと言われたことはあるけど、5年間を舐めんなよと言ってやりたい。