「え、お店で待っててくれてよかったのに」

「あ、そうなんだけど。なんかその、お仕事でお疲れなのに来てもらうの申し訳ないなって」


本当は早く会いたかったからなのに。電話だと素直に言えたことがどうして目の前にするとこうも言えなくなるんだろう。


木崎くんはどこか残念そうな表情で肩を落として、「なんだ聞き間違いかー」と零した。


「聞き間違い?」

「そう。電話切れる寸前に水篠から私も会いたいって言われたような気がしてさ?だからてっきり走ってきてくれたのは俺に会いたいって思ってくれてたのかなーとか·····あ、待って痛い妄想してるみたい。ごめん忘れて」


木崎くんが両手で顔を覆って、「ごめん今のなし」と言う。その手の隙間から見える顔が赤く見えて、私まで赤くなってくる。


「·····妄想じゃないよ」


両手の隙間から覗く木崎くんの瞳が驚いたように見開く。


さっきまではやっぱり言えないとか思ってたのに、木崎くんが両手で顔を覆ってらしくもなく恥ずかしがるところを見た途端思いが私の意図と関係なく自然と溢れ出す。


私はやっぱり、完璧そうな木崎くんの完璧じゃないところ、余裕そうな木崎くんの余裕じゃないところに弱いんだと思う。



「私、木崎くんが好きだよ」



心臓がどくどく騒いでうるさいけど、なんだか心はすっきりとした気分だった。たとえ悪い結果になったとしても、きっと後悔はしない。