どんどん町から遠ざかって行った。深い森に入り、ようやく話始めたアレク。
「なぜこの町に?」
「この町に来たのはボクのお父様に会うためです。
お父様はボクがまだ幼い頃にボクをステラ共和国のオリバー様の元に預けてそのままパーニスに旅立ったと先日聞いて...。
ボクはどうしてもお父様に理由を聞きたいんです!どうしてボクを置いて一人で旅立ったのか」
「アルマ...」
アルマの震えた手を優しく握りしめたルイス。すぐに落ち着きを取り戻して話を続けた。
「もう少しでその答えが分かる。見えてきたぞ」
建物が見えてすぐにパンを焼く匂いがし始めた。
「パンの匂い。これって...!」
アルマはすぐに察した。
「そうだ。このパンの匂いは君の父。ライアンが焼く、パンの匂いだ」
アルマは一人パンの匂いがする方に走り出した。そして着いたのは小さな山小屋だった。
そこには驚く光景が広がっていた。
こんなに山奥なのに沢山の人が!?
「アルマ。一人で勝手に行くな。...これは!」
ルイスもその光景に驚いた。
「こっちだ。俺たちは裏口から入るぞ」
アレクに案内されて小屋の裏口から中に入った。
「おいライアンちょっといいか?」
「アレク。お前今までどこに行ってたんだ?ん?その二人は」
「驚くなよライアン。ほら」
アレクに背中を押されて前に出たアルマ。徐々に胸の鼓動が早くなってきた。
「あ、アルマ・ベイカーです...。お父様?ですよね?」
ガシャン
ライアンはアルマに驚いてさっきまで持っていたパンが乗っていた鉄板を落としてしまった。
「アル...マ?本当にアルマなのか?」
「はい...!」
自分の娘だと確信して涙と震えが止まらなくなったライアン。少しずつアルマに近づいて行った。
アルマは待っていられず、自ら父、ライアンの胸に飛び込んだ。
「ボクです。あなたの娘のアルマ・ベイカーです。お父様...!会いたかったよ。うぅ...」
「そうか。本当にアルマなんだな。俺も会いたかったぞ。今まですまなかった...」
ようやく会えた。生きていてくれた。ボクはそれだけで嬉しい。
ざわざわ
店の奥で何かあったのかと客が騒ぎ始めた。
「アルマ。一旦外へ出よう」
「ルイス様...」
「ライアン。ここは任せろ。久しぶりの再会だ。ゆっくり話してこい」
「すまないアレク。この店の屋根裏部屋で話そう」
厨房のはしごを登って屋根裏部屋に移動した。
「今茶を入れる。座っててくれ」
ライアンが入れたお茶で一息ついたアルマとルイス。
「おかわり欲しかったらいつでも言ってくれ」
「「はい」」
「そういえば君は...」
ライアンはルイスの方をじっと見て言った。ルイスはティーカップを置き、身なりを整えて挨拶をした。
「申し遅れました。私はルイス・バトラー。ステラ共和国でオリバー国王に仕えている者です。以後お見知りおきを」
「おぉ...!オリバー様とは懐かしい。今もお元気で?」
「はい」
「それは何よりだ。そうか。もう、十六年か。早いものだ。感謝する。ここまでアルマに着いてくれて」
頭を深々と下げたライアン。
「いえ、これも私の務めです」
「お父様」
「アルマ。お前もよく、ここまで来た。...話さなきゃならないな。お前を十六年もの間オリバー様に預けていたことを」
再び腰をおろして茶を飲み、心が落ち着いたところでライアンは二人に真実を語り始めた。
「実はな、母さん...アルマの母親のエレノアが亡くなる前にある約束をしたんだ」
それは、アルマが生まれてすぐの事。
エレノアは体調を崩して入院していた時、ライアンに一つの夢を託した。
「ねぇ。一つお願いしていいかしら?」
「なんだ?」
日に日に弱っていくエレノア。力を振り絞ってライアンに言った。
「あのね、わた...ボクの母様が生まれ育ったパーニスにあなたのお店を開きたいの。
この身体が良くなったらアルマとあなたと三人でパーニスに行って...パン屋さんを開いて...家族で......」
声が弱くなってきた。呼吸するのも辛い中、エレノアは最後までライアンの目を見て話続けた。
ライアンは時間を重ねる事に弱っていくエレノアをただ、じっと見て、手を握り、話を聞き続けた。
「あなたはパン職人の天才よ。ステラだけでパン屋をやるのは勿体ない。
もっと..はぁ....色んな人にあなたのパンを...はぁ...沢山の人に食べてもらいたい。
それはボクがこの世を去ってもよ。最後のお願い。ライアン....ボク達家族の夢を叶えて......」
エレノアは自分の夢をライアンに託し、そっと目を閉じた。
エレノアの閉じた瞳から一粒の涙が流れ落ちた。
エレノアが亡くなってから、ライアンは着々とパーニスに行く準備をしていた。
しかしライアンはまだ未熟もの。
このままパーニスに行っても、アルマを育てながらパン屋を開くのは難しいと考えた
その事を相談する為に、ライアンはアルマと共に、オリバーの元を訪れた。
「アルマを連れてパーニスに行き、パン屋を開きたいんですが、それまでの生活の事を考えるとやはり厳しいもので....」
勿論、ライアンは考えた。アルマがもう少し大きくなって、お金が溜まってからでも遅くはないと。
しかしそれでも生活の保証は無い。余計アルマに苦しい思いをさせるだけだ。
するとオリバーは一つ、ライアンに提案した。
「お前の気持ちはよく、分かった。こうならどうだ?アルマはしばらく私達が預かる。それなら、苦しむのはお前だけだ」
ライアンはその手があったかと目を見開いてオリバーの方を見た。
だがすぐにその考え方に欠点がある事に気づいた。
「そしたらアルマはまた違う哀しみと共に生きなければならない。やはりもう少し時間が経ってからでも」
「ライアン」
「ベラ様」
ベラはアルマを抱きかかえてライアンの方に近づいた。
「アルマはエレノアに似て優しい子に育ち、ライアンに似て、心の強い子に育つでしょう。
私も人の親です。貴方の気持ち、痛いほど分かります。
ですが、貴方はこの先、エレノアのとの約束を何年も犠牲にして果たさないつもりですか?
生きものの時間というのはとても複雑です。ここで諦めてしまっては、店を開く前に貴方はエレノアとまた再び出逢うことになってしまいます。
それは、約束を果たせないのと同じです。生きている内に、約束を果たし、エレノアに胸を張って逢うのが一番いいでしょう。
アルマは私達が責任をもって育てます。心配いりません。
成長したアルマはきっと、貴方の気持ちを理解してくれます。
だから、お行きなさい。そして、エレノアとの約束を果たして下さい」
その言葉に背中を押されたライアンはオリバー達にアルマを預けることを決心して、一人、パーニスへと旅立った。
パーニスへ行ってすぐにライアンは町のパン職人に弟子入りをして、一から修行をし始めた。
その時一緒に修行をしていたのがアレクだった。
二人は二年程で、店を持てるまでに成長した。
そしてその時貯めたお金で二人は一緒に森の奥で店を開いた。
それから二人はパンを作っては町に売りに行き、その名を世に広げていった。