「雷を操った、って言い伝えがあるけど」
「ていうか、思った所へ雷を落とせた」
「……嫌なことを聞くが、昔の人はどうやって雷帝を倒したんだ?」
 その、無敵の雷帝を。
「……王家に記録は残ってないの?」
 頬張ったものを飲み込んで、ナーザは尋ね返す。
「残っているよ──悪い王様を倒す勇者と魔法使いの華々しい英雄譚が。実際のところがどうだったか、知りたいんだ」
「……華々しくはなかったなあ……」
 ナーザは、焚火の明るさが届かない暗がりに目を逸らした。焚火に照らされていた金茶の瞳が翳る。
 同時に、シルフィスはリシュナに睨まれるのを感じた。
 だけど、文句をつけてこないところを見ると、この情報が必要なのだと分かって我慢してくれているのだろう。
「地味に、こつこつと、数で──押し切ったんだよ」
 と、ナーザは低く語り出す。
「電気は空中から集められても、体力は尽きるからね。犠牲が出るのは覚悟の上、って感じだった。……それでも、ちゃんと、穏やかに晴れた日を選んで攻めてきたよ。ホルドトの死体兵は昼でも動けたけど、夜に比べりゃ全然使い物にならなかったし、そういう穏やかな日って、電気を集めにくいんだ。そういうの、わかってるやつがいたんだな。良かったよ、嵐の夜だったりしたら……」
 何倍殺したかわからない──語られなかった言葉が聞こえた気がして、シルフィスは息を落とす。
「……すまなかった」
「ん、何が?」
 と、シルフィスへ戻されたナーザの目に、曇りはないが。
 いや、とシルフィスは視線を伏せる。
 とりあえず、今の話だと、万が一雷帝が復活しても倒せないことはないらしい。多数の犠牲を覚悟すれば。
 ──冗談じゃない。
 犠牲なんか出してたまるか。
 月を見上げて時間を計った。
「少し眠ろう」
 明日の朝のために食糧を半分残して、ナーザに言った。