すでに深夜だ。
 逸る気持ちを抑えるのは苦しかった。が、山の中で馬を乗りつぶすわけにはいかない。明日一日走らせるつもりなら、せめて夜明けまでは馬を休ませなくてはならないだろう。
「では、その間、僕たちも休もう」
 手頃な木に馬を繋ぎ、火を起こし、ダルグにもらった包みを開けた。中身はパンとチーズと干した果物。
「驚いた? ──さっき」
 ナーザに聞かれ、シルフィスは浅く笑った。そう聞かれるくらいに驚いた顔をしていたんだろう──さっき、ナーザの雷撃を見たとき。
「驚いた」
 パンをちぎり、正直に言う。
「雷撃の異能自体、初めてなんだが……話に聞いていたのとも、違っていてね。雷撃の異能者は、体の中で電気をつくってそれを放出するんじゃないのかい?」
 ナーザはパンにチーズと果物をのせた。
「そうらしいね。けど、俺は空中の電気を集めて操ることができるんだ」
 言って、パンにかぶりつく。
 では、電気切れはないわけか?
 ぞっとした。
 しかも、さっきの攻撃を見ると、相手との距離はあまり問題にならない。つまり、一般に言われている雷撃の弱点──『体内でつくった電気を放出しきってしまえばただの人間』と『触れるか近づくかしなければ攻撃が届かない』──がないことになる。
 無敵じゃないか。