「いいえ、噂は間違っていません。誰にも知らせなかったのは……犯人が、僕の身内で、僕が共犯者だからです」
 部屋の全員が息を飲むのが分かった。
 さあ、どこからどう話そう。
「僕の母が魔女で、魔法使いの一族の出身なのは、ご存知ですか」
 見回すと、全員が驚いた顔のまま頷いた。
「母の兄、僕にとっては伯父ですね、ネイロフと言うんですが、一族の中でいちばん秀でた力を持った魔法使いなんです。その伯父が、ある晩僕の寝室に現れて……」
 驚いて飛び起きたシルフィスに、伯父はシィーッと人差し指を口に当て、優しく笑った。──久しぶりだね。妹の忘れ形見に会いたくて、忍んでしまったよ。王宮に何度お願いしても、お許しが出なくてね。ああ、ディアナム、一人ぼっちでさぞ寂しかったろう……。
「……ネイロフは、『黒白の書』があれば母を甦らせることができるかもしれない、と言ったんです」
 信じられなかった。でも……。
 古(いにしえ)には、今よりもっともっと素晴らしい魔法があったのだよ。その秘密を記した『黒白の書』。可哀想なディアナム、母に会いたいだろう? 私も妹に会いたいのだ。王家の血を引くおまえなら、書庫の封印錠が解けるはず。ああ、もちろん、ことが済めば『黒白の書』は王家にお返ししよう。もちろんだとも……。
「で、書庫を開けて、伯父に『黒白の書』を渡してしまいました」
 部屋が、しん、としている。少し、心が寒くなる。
「そのまま彼と城を出ました。一緒に儀式を行える場所を探そう、と。でも、宿に泊まって朝になると、隣のベッドは空でした」
 長いこと、朝日に照らされた白い敷布を見つめていた。敷布の真ん中には、赤く、復讐、の文字が残されていて。
 自分が何をしたのか理解したとき、他の選択肢は考えられなかった。
 己の手で『黒白の書』を取り戻す。
 ……何だか、身の上話みたいになってしまった。