「ただいま、父さん」
「元気だったか? ユーリーの占いどおりだ。今日は待ち人来る、ってね」
「イストから、空文で連絡来ただろ?」
 ナーザは両手のふさがった父親のためにドアを開ける。
「知らんよ。俺は朝から畑に出て、今戻ったところだ。やあ、リシュナもおかえり。──こちらは?」
 視線を向けられて、シルフィスナーザの父親と会釈を交わした。ちらりと見えた箱の中身はハーブだった。たぶん、彼がハーブを育て、魔女の奥さんがそれで薬をつくるのだろう。
「シルフィスと申します」
「ナーザの父の、ダルグです」
「シルフィスさ、母さんの占いを見たいって」
 気のせいだろうか、ふと、ダルグの明るい瞳が翳った気がした。が、すぐに彼は笑顔でシルフィスを促した。ここは裏口なので表からどうぞ、と。
 ナーザについてぐるりと家を回った。
 『金の三日月』と書かれたドアを開けたとたん、乾燥させたハーブの香りがシルフィスの呼吸器を満たした。天井からはドライフラワーが下がり、壁の棚には花弁や木の実を詰めた瓶が並んでいる。