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 白い街並みにも、静かな湾に帆を休める船の上にも、明るい日差しが降っていた。港を見下ろしながら、シルフィスたちは急な石畳を下って行く。
 坂道の両側の家々はベランダに色鮮やかな花を咲かせ、吹き上がってくる風は潮の匂いがした。
 後方から、坂道を駆け下る足音がシルフィスたちに近づいてきた。
「ナーザ!」
 名前を呼ばれてナーザが足を止める。呼びかけたのは、ナーザと同じ年頃の茶色の髪の少年だった。
 よお、と、ナーザは少年に笑う。少年は立ち止まって額の汗を拭った。
「おお、ナーザ、ひさしぶり! リシュナは?」
 リシュナが袋から顔を出す。
「元気そうね、モール」
「なんだ、まだ首だけなの? 早く元に戻っておっぱい見せてよ」
「ふん、高いわよ?」
「大丈夫。がんばって稼ぐから。キサラの船が入ってさ、今から荷揚げを手伝うんだ」
 茶色の髪の少年は、いつまでいるの、なんて会話をナーザと交わすと、すぐに、じゃあな、と手を振った。坂道を港に向かって駆け去っていく。
 突風に巻かれたような気分で、シルフィスは少年の後ろ姿を見送った。
 もし、王都で飛頭を連れ歩いたら……少なくとも、今の少年のような対応はない。好奇の目か、上辺だけの同情か。