「お客さん、魔法が好きなの? イストの空文にも、すごい反応をしてたよね」
「そろそろ『お客さん』は止めてくれないか」
 自分を見上げる金茶の瞳に、シルフィスは苦笑する。
「僕はシルフィス。小さい頃、魔法使いに憧れてたんだ」
 勇者を助けた良き魔法使いに、というセリフは飲み込んだ。この少年は、二百年前、その勇者と良き魔法使いに倒されたのだ。
「へえ。もし興味あるなら、母さんに何か占ってもらう?」
 願ってもない申し出だった。家までついて行ってナーザを観察することができる。彼を育てた両親にも会える。
 袋から飛び出しそうな勢いで、リシュナが、ナーザ、と咎めたけれど、ナーザは聞こえないふり。
 いつの間にか、迷路のような細い道を抜けていた。ナーザに歩調を合わせ、シルフィスはゆるく曲がる坂道の石畳を下って行く。
 重なる建物の向こうに光るものが見えた。シルフィスは目の上に片手でひさしをつくり、あれは何だろう、と光を見つめる。
 唐突に、気づいた。
 あれは、海だ。眩しく太陽の光を弾く、午後の海。