ナーザは飛頭を布袋に入れて歩いていく。人目につかないように隠しているのかとも思ったが、飛頭は袋の口からときどき周りを眺めていたりする。見つからないように気をつけている様子はない。
「あまり、飛べないのかな? ええと、彼女」
 遠慮がちに聞いてみる。答えは、まず、リシュナ、と返った。
 リシュナ? ……ああ、飛頭の名前か。
「飛頭って呼ばれてるけど、そんなに長くも速くも飛べないんだ。浮いてる、とか、漂ってる、って感じ」
 なるほど。改めて挨拶しようかと、リシュナを見たが。
 目が合った途端、ふん、とそっぽを向かれてしまった。
 何故か嫌われたようだ。女性受けはいい方なんだけどな。
「『黒白の書』があればリシュナの呪いを解く方法もわかるかもしれない、って思うんだ」
 唐突にナーザの口から出た言葉に、シルフィスはどきりとする。
 だが、ナーザがその魔法書のことを知っているのは当たり前だ。まず、『黒白の書』は前世の彼に仕えた魔法使いが記した書物だ。それに、王宮は盗まれた『黒白の書』に莫大な賞金を懸けた。国中の民が、今ではその名前を知っている。