「で、どっから話す? 虎が逃げたところ?」
「えーと、そうだね……」
 話を聞く意欲がすっかりと減じている。やっぱりエルラドは外れかな。とりあえず、会話が途切れないよう、聞いてみた。
「雷撃の異能は、いつから身についたのかな。生まれつき? 特別な修行をして?」
 少年の笑みが強張った。まっすぐだった視線が揺れた。視線はそのままシルフィスを逸れて斜めに床に落ちる。
 問いの答えは返らない。
「あの、君……?」
 少年の態度の急変に、シルフィスは戸惑った。心配になって顔をのぞこうとしたとき、
「ナーザ! ──あら、お客さんだったの、いらっしゃいませ」
 声のした方をふり向くと、部屋の隅の階段をひとりの女が降りてくるところだった。肩に波打たせた豊かな銀色の髪──シルフィスは外に出て看板を確かめたい衝動を行儀よく抑えた。『銀の子猫』だったよな、『銀の子ブタ』じゃなくて──なんて失礼にも程があるだろう。
「じいさんの薬がなかったわ。ユーリーに連絡するから、取ってきてくれる、ナーザ?」
 どうやら少年の名はナーザというらしい。で、今テーブルの横を通り過ぎていくふくよかな女性がここのミストレスか。