広場をよぎり、ひときわ大きな三階家のドアを開ける。
鳥の翼の紋章を押して。
「よう、シルフィス」
カウンターで飲んでいる男が目ざとく声をかけてきた。男の相手をしていたらしいグラマラスな美女は、カウンターに頬杖をついて妖艶な微笑みを送ってくる。隅のテーブルの二人組も、自分に向かってそれぞれにグラスを挙げてみせた。
いつも通りの『青鷺の宿』のフロアーの光景だ。
「おかえり、シルフィス。マスターは、上よ。以前あなたが片付けた仕事の依頼人が、あなたにお礼の使者を送って来たそうよ」
「へえ」
そんなことで呼ばれたのか。
礼なんて、支払いついでにマスターにしとけばいいのに。いつの仕事だろう。
階段を昇ろうとすると、カウンターの男がからかうような声を投げてきた。
「残念だったな、シルフィス」
「残念?」
シルフィスは足を止める。男は、にやり、と笑った。
「『黒白の書』のことだ。何と、ディアナム王子が取り戻したんだって?」
「……って、噂だね」
感情のこもらない声でシルフィスは返す。そういえば、前回ここに来たとき自分に、『黒白の書』は見つかったか、と聞いてきた相手だ。
鳥の翼の紋章を押して。
「よう、シルフィス」
カウンターで飲んでいる男が目ざとく声をかけてきた。男の相手をしていたらしいグラマラスな美女は、カウンターに頬杖をついて妖艶な微笑みを送ってくる。隅のテーブルの二人組も、自分に向かってそれぞれにグラスを挙げてみせた。
いつも通りの『青鷺の宿』のフロアーの光景だ。
「おかえり、シルフィス。マスターは、上よ。以前あなたが片付けた仕事の依頼人が、あなたにお礼の使者を送って来たそうよ」
「へえ」
そんなことで呼ばれたのか。
礼なんて、支払いついでにマスターにしとけばいいのに。いつの仕事だろう。
階段を昇ろうとすると、カウンターの男がからかうような声を投げてきた。
「残念だったな、シルフィス」
「残念?」
シルフィスは足を止める。男は、にやり、と笑った。
「『黒白の書』のことだ。何と、ディアナム王子が取り戻したんだって?」
「……って、噂だね」
感情のこもらない声でシルフィスは返す。そういえば、前回ここに来たとき自分に、『黒白の書』は見つかったか、と聞いてきた相手だ。